心に届く歌





「……イヴェール様、マイク、貸していただけませんか」

『良いわよ』


マイクを受け取ったシエルは、息を吸い込み話し出す。



『今、イヴェール王妃様から僕が王子かもしれないという報告がありました。
正直今凄く戸惑っていますし信じられません。

ですが、良い機会なので言わせていただきます。

僕は、…ここにいらっしゃるエル・ソレイユ様のことが、好きです』



突然のシエルの告白に、わたしは息を飲んだ。



『僕は皆様ご存知だと思いますが、ずっと村で育ってきました。
辛くて苦しくて、でも抜け出す方法なんて知らなかった僕でしたが、
ひょんなことからエル様と出会い、様々な人たちと出会ってきました。

僕はいつしか、僕を救いだしてくれたエル様に惹かれていました。
願わくば、僕がエル様を幸せにしたい、と。

でも、僕は村出身で、エル様の執事で、身分差と言う壁がありました。
諦めようとは何度もしましたけど、諦めること何て出来なかった。
僕のことは、エル様抜きじゃ話せないことがいっぱいあったんです。

自分の身分をわきまえていながら何を言っているんだと言われるかもしれません。
反対する人だっているってわかってます。
僕なんかより、プーセ様の方がご立派で素晴らしく、エル様にお似合いだとは思います。

でも、先ほども言いましたが、諦めること何て出来ない。
諦めかけていた光を僕はエル様にもらったんです。

エル様を好きな気持ちも、大切にしたい気持ちも、僕は誰にも負けませんっ!』




声も足も震えていて、でも目だけはしっかり前を見つめている。

怖がりで、臆病だった彼が、国民全体に呼びかけている。



『お願い致します!』



シエルはマイクを持ったまま舞台を駆け下り、プーセの前に立った。

黙って聞いていたプーセは、目の前のシエルに後ずさりをしていた。



『無茶なことだってわかってます。
でも、お願いします!

僕にエル様をくださいっ!』



シエルは何度も腰から頭を下げる。

その必死な姿に、わたしは背中を押された。

今、言うべきだ。



「誰か!ピアノをわたしに貸してちょうだい!」



マイクに負けないぐらい声を上げると、数人の使用人がすぐに用意してくれた。

噴水広場から近い家の人がピアノを持っていて、貸してくれたのだ。

わたしはお礼を言い、椅子の高さを合わせて座る。

楽譜はもう何度も弾いてきたんだ、見なくたってわかる。



「シエルっ!」

『は、はいっ!』

「わたしが合図をしたら歌って」

『な、何をですか!?』

「例の歌、歌って。シエル」




シエルはよくわかっていないみたいだけど頷き、ピアノに近寄る。

わたしはシエルが近づいた所で、あの曲を弾き出した。





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