心に届く歌
☆エルside☆
写真が決定的となったのか、シエルが呟いた途端、歓声が国民から上がった。
「リュンヌ王国王子様、万歳!」
「生きていたのかー!」
「リュンヌ王国王子・シエル様万歳!」
賑やかな歓声に、シエルは少し驚いて後ずさりをしていた。
わたしはその手を引き、シエルを見てニッと笑う。
シエルもぎこちなくだけど笑い返してくれた。
「……プーセ。
わたしも、シエルが好き。
シエルと一緒になりたい」
黙って事を見ていたプーセに言うと、プーセは盛大に溜息をついた。
「あーあ。相手が王子様じゃやっていられねぇぜ。
折角執事に頼んで偽物作ってもらったのによ」
「何?」
「何でもねぇよ。
大体俺も、最初から結婚は嫌だったんだ!」
プーセはダッと駆け出す。
その後を黒い服を着崩した男性が追いかけて行く。
「坊ちゃん待てよ!」と言っていた所から、恐らくプーセの執事なのだろう。
「……シエルくん」
「っ!プランタン国王様」
シエルが一礼すると、お父様は頭を撫でた。
部屋での暗い雰囲気はなくなっていた。
「国民も納得してくれたようだ。
キミに、娘を頼みたい」
「こ、く……王様……」
「よろしくね、シエルくん」
「……はいっ!」
シエルは頷き、わたしと近くにあったカメラを見てふんわりと笑う。
その笑顔に、ぎこちなさなどなかった。
「エル様っ……改めまして、結婚してくださいっ」
「喜んで、シエル」
わたしはぎゅっとシエルに抱きつく。
シエルは静かに泣きながら、わたしのことを抱きしめてくれた。
お互いドレスにスーツだったので、わたしは一旦カーテンの向こうに消える。
お父様と手を繋いだ時、わたしはお父様を見上げた。
「ありがとう、お父様」
「世界で1番幸せな花嫁になれて良かったな」
「うんっ……!」
「ふたりして一緒に幸せになりなさい」
『改めまして新郎、シエル…………様のご登場です!』
執事長は『シエル・セレーネ』というべきか
『シエル・リュンヌ』というべきか迷ったのだろうけど、
結局名字は言わずに司会をする。
カーテンで見えないけど歓迎されているようで、大きな拍手が響いていた。
『では、新婦、エル・ソレイユ様のご登場です』
バッとカーテンが開き、後ろ向きで立つシエルの背中が見える。
わたしは今すぐ飛びつきたい気持ちを抑え、ゆっくりシエルの元へ向かい。
お父様の手から離れた手を、しっかりシエルと繋いだ。
「エル様っ……夢みたいです、あなたを幸せに出来るなんて」
「わたしだって信じられないよ。
でも、今は現実であって、全部本当のことなんだよ」
「エル様っ……これからもどうぞ、よろしくお願い致します」
「堅苦しい挨拶はしないで?エルって呼んで、シエル。
敬語もなしね」
「わかった、エル」
にっこり歯を見せて笑うシエル。
わたしが待ち望んでいた笑顔が、そこにあった。
「それでは、誓いのキスを」
神父さんに言われ、わたしたちはそっと唇を重ねた。