心に届く歌
執事と言うものは有能だ。
主の頼みを叶えるのが仕事。
本業は医者だといっても執事なのだから。
情報屋をひとり持っておこうと考え、見つけたのが名前の知らぬ情報屋だった。
彼(性別も名前もわからないけど、取り敢えず彼)は、シエル様の情報を調べてくれた。
郵便で送られてきた報告書を見て、ぼくは言葉を失った。
シエル様と、同じ名前を持つリュンヌ王国王子。
セレーネという名字だけど、養子になったのだから可笑しくない。
もし、リュンヌ王国王子である『シエル様』と、シエル様が一緒だったのなら。
ぼくには、どこにいるかもわからない兄様の代わりに、彼を守らなくては。
シエル様が、リュンヌ王国王子である『シエル様』と同じ名前だから優しくしたのではない。
シエル様は自虐的な発言が多く、否定され続けてきたから自分を当たり前のように否定する。
重度の貧血持ちで、いつも何かに怯えて震えている彼を、何だか守りたくなった。
誰にも優しくされたことない彼の心を開いてあげたかった。
そして今、彼は愛しい人の隣で幸せそうに笑っている。
兄様が守ったという、シエル様が笑っている。
ぼくと同じよう、『笑ってくれると良いですね』と言ってくれていた情報屋も今の光景を見て喜んでいてくれているだろうか。
ぼくはスマートフォンを手に取り情報屋に電話をかけた。
向こうは機械越しでくぐもった声だけど、会話は出来る。
『やあ。シエルくん、幸せになって良かったね』
「あなたのお陰ですよ情報屋さん」
『……堅苦しいなぁ、お前は』
機械越しでくぐもっていた声が、普通の肉声になる。
ぼくはその声を聞いた途端、声を失った。
そして後ろから、名前を呼ばれたのでゆっくり振り向いた。
「よぉ、久しぶり」
「……兄、様……」
スマートフォン片手にひらひらと手を振っているのは、兄様。
久しぶりに見るけど、自分が憧れた兄を見間違うわけない。
車椅子をこぎながら、兄様はぼくの隣に来た。
「戦争でさぁ、色々巻き込まれちゃったんだよねぇ。
本当、戦争は反対だなおれ」
「……兄様…」
兄様は普通にパンツを穿いていたけど、片足がなかった。
「……兄様、シエル様、生きていたよ」
「本当…奥様から守った甲斐があったな。
お守りすると、奥様に誓ったんだ、シエル様を」
エテ様と王子を守ると約束した日を思い出しているのだろう。
兄様は目を細め、そしてにっこり笑った。
「本当、シエル様が幸せになって良かった」
「…………」
「それに、お前にまた会えて良かったよ。我が弟」
「兄様っ……!」
泣き崩れたぼくを、兄様は笑いながらぼくの頭を撫でた。
本当、シエル様に感謝だ。
ぼくと兄様を、会わせてくれて、ありがとう。