心に届く歌
髪を乾かし戻ってきたシエルは、欠伸をしつつ布団に潜り込む。
わたしは電気を消し、隣に潜り込んだ。
やっぱりシエルには隣にいてほしい。
「シーエル?どうしたの。もしかして子ども嫌い?」
「……嫌いじゃないですよ」
「あんまり喜んでいないね?」
「……今更なんですけど、子ども欲しくないなって思っていたので」
突然の告白に、わたしは思わず飛び起きる。
すると慌てたようにシエルも上体を起こした。
「勘違いしないでください。殺せなんて一言も言いませんから」
「言われたら困るわよ!この子跡継ぎなんだから」
「子どもは、嫌いじゃないです。
関わったことないので、好きかどうかわかりません」
「じゃあどうして欲しくないなんて……」
「……怖い、からです」
ぎゅっとシエルは布団を握った。
「前に、ソンジュさんとベレイくんが、僕を地下室に連れて行ったこと、覚えていますか」
「ええ……」
あのふたりは今、刑務所にいて罰を受けている。
そして獄中結婚したのだと、この間聞いた。
「あの時の僕の映像も、覚えていますか」
「覚えているけど……」
「あんな感じに、子どもに手を出してしまいそうで、怖いんです。
虐待は連鎖するって、言いますよね」
「確かに言うけど……」
「子どもは嫌いじゃないんですけど、僕が手を出しそうで怖いんです。
それこそ、両親と同じようになりそうで。
あの時みたいに、自分が冷たい人間になったらどうしようっ……」
シエルの目が潤む。
ネックレスを隠す必要がなくなったため、シエルは前髪を切った。
綺麗な黒目が潤んでいて、少し大人っぽい。
前はすぐに泣いていたシエルだけど、最近では涙をこらえるようになった。
「……シエル、ひとつ良い?」
「へ……?」
「あなたは、ひとりじゃないよ。
わたしがいる」
「エル様……」
「もしシエルが手を出しそうになったとしても、大丈夫。
わたしが必ず、シエルを冷たい人間になんてしない。
シエルはひとりじゃないから、大丈夫だよ」
そっと手を広げると、シエルはわたしを抱きしめてくる。
「…あなたの言葉には、やっぱり魔法がかかっている気がする」
「ふふ、シエルが大好きだからね」
「ありがとう。エル様。
そうだよね……僕、ひとりじゃないね」
わたしから少し離れ、わたしの唇を塞いだ。
暫くベッドの上でキスを繰り返し、わたしたちは一緒に笑った。
「さて、寝ようかシエル」
「はいっ!」
一緒に布団に潜ると、手を繋いでくる。
シエルを見ると、恥ずかしそうにはにかんでいた。
その笑顔に、やっぱりぎこちなさなどなかった。