心に届く歌
結婚式と同じようにカメラと大きなプロジェクターが用意されており、プロジェクターいっぱいに娘の顔が映り込む。
『エル様、お名前は決めているのですか?』
『まだ決めていません。
大事な名前なので、ゆっくり決めたいと思います』
名前は命がそこに存在している証だと、前に本で読んだことがある。
変えることの出来ない大切な名前だから、シエルと真剣に悩んで決めたい。
「エル」
「シエルっ!」
名前を呼ばれ振り向くと、シエルが右手をひらひらと振っている。
わたしがシエルに近づくと同時にカメラも動き、画面に3人で映り込む。
「抱っこしてみて、シエル」
「……良いんですか?」
「勿論!あなたとわたしの娘だもの!」
シエルはぎこちなく、わたしの手から娘を受け取り、そっと抱える。
シエルの腕の中で、娘は安心したように眠っていた。
「…………エル」
珍しいらしくまじまじと見つめていたシエルが呟く。
「ありがとう、エル。
僕の生きる理由が、もうひとつ出来たみたいだ」
「シエル……」
「本当に、ありがとうエル」
ふわっと、シエルはぎこちなさを完全に消し、柔らかく微笑んだ。
画面に映ったその笑顔に、国民全員が惜しみない拍手を送る。
夢が、叶った瞬間だった。
「エル」
「ん?」
「これからも、ずっとずっと、この子と一緒に僕の隣で笑ってて。
ずっとずっと、僕の隣にいてね!」
「当たり前だよ!大好きシエルっ!!」
ぎゅっと娘をわたしたちの愛で包むように、ぎゅっと抱きしめ合う。
拍手は世界に広がるように、いつまでも鳴り響いていた。
きっとこれからも、わたしたちの間には困難があり、辛いことだってある。
初の女性国王として、男じゃないとわからない部分だってあるかもしれない。
だけど、大丈夫。
大好きなあなたがいて、守っていくべき命がある。
大切な人がいる。
それだけで、わたしたちは強くなれることを知っているから。