心に届く歌
「わたしのこと、見ないの?」
「…………」
「こっち向いて?」
ゆっくり…恐る恐る目を開けた彼は、わたしの方を振り向いた。
そして少し移動し、わたしとの距離を広げた。
「何で逃げるの」
「……だって…ぼ…僕とあなたじゃ…身分がっ…」
「身分なんて関係ないでしょう。
今のあなたは病人で、わたしはあなたを保護したの。
もう少しこっち、おいでよ」
正直言って、わたしのこの優しさは自己満足だ。
同じ空間に同い年か年下の異性がいる事実が初めてだから。
友達のいないわたしにとって、彼は異世界の人物に見えるほど興味深い人だった。
未確認生物を見つけてはしゃぐ研究者の気持ちが大いにわかる。
「…………」
「おいでよ。次期国王命令だよ」
肩書きを使い少し脅してみると、彼は再びわたしとの距離を縮めた。
酷くわたしに怯えていることが伝わるほど、距離は近かった。