心に届く歌






「わたしのこと、見ないの?」


「…………」


「こっち向いて?」





ゆっくり…恐る恐る目を開けた彼は、わたしの方を振り向いた。

そして少し移動し、わたしとの距離を広げた。




「何で逃げるの」


「……だって…ぼ…僕とあなたじゃ…身分がっ…」


「身分なんて関係ないでしょう。
今のあなたは病人で、わたしはあなたを保護したの。

もう少しこっち、おいでよ」




正直言って、わたしのこの優しさは自己満足だ。

同じ空間に同い年か年下の異性がいる事実が初めてだから。

友達のいないわたしにとって、彼は異世界の人物に見えるほど興味深い人だった。

未確認生物を見つけてはしゃぐ研究者の気持ちが大いにわかる。





「…………」


「おいでよ。次期国王命令だよ」





肩書きを使い少し脅してみると、彼は再びわたしとの距離を縮めた。

酷くわたしに怯えていることが伝わるほど、距離は近かった。





< 54 / 539 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop