ポラリスの贈りもの
(CCマート社員寮“幸福荘”一階食堂)
夏鈴さんの胸でひとしきり泣いた後、
二人で食事を済ませてコーヒーを飲む。
私は彼女からカメラマンである元彼の話と、
私の許に北斗さんが来ていた同じ時、
浮城さんから告白されたことを聞かされた。
星光「そっか。桑染洋史(くわぞめひろし)さんね……
そんな大きな仕事していたカメラマンだったんだ」
夏鈴「うん。
だからキラちゃんから北斗さんが、
スターメソッドのカメラマンだって聞いて、正直驚いた。
しかもあの夏祭りでも浮城さんと出逢ってさ、
内心、ここにあの人が居たらどうしようって考えたらドキドキだったよ。
でも、写真展のパンフレットに彼の名前はなかったからホッしたわ」
星光「そうだったの……
そんな思いをしてたのに、私のこと考えて誘ってくれたのね。
夏鈴さん、ありがとう」
夏鈴「ううん。いいの、いいの。
もう4年も前に終わったことだし、
彼との想い出も、日々大切にしていた手帳も燃やしちゃったの。
私、彼をいつまでも引きずったりしないもの。
でも……関連のある会社のカメラマンって聞くと、
やっぱり未だにドキッとしてしまう」
星光「そうよね。
彼もスターメソッドのカメラマンだったの?」
夏鈴「ううん。昔、駆け出しの頃に、
面接を受けたことがあるらしいけど落ちたって。
それから何年か別の会社で勤めて、フリーになったって聞いたわ。
さっき、浮城さんから言われたのよね。
『君はかなりカメラマンに偏見をお持ちのようで、
昔の男がカメラマンで、大失恋したとか?』って。
切り出された時には簡単に見抜かれたもんで、
ほんと心臓止まるかと思ったわ」
星光「そっか。それは辛かったわね……」
淡々と笑顔で話す夏鈴さんだったけれど、
同じ職業である男性と絡むことに、
戸惑いを感じていると知って、またも切ない気持ちに襲われる。
いくら時が経ってたと言っても、一度大きく抉られた心には変わりなく、
元彼のトラウマに囚われて、
浮城さんへ向かう気持ちを当惑させているなんて。
聞いているだけの私のほうが居たたまれず、大きな溜息をついた。
夏鈴さんの過去に触れて、私自身の感情も揺さぶられる。
しかし、本当に意味で震撼するのはずっと先のことで、
その事件に絡んでくる人物が予想もしない形で、
私や夏鈴さんまでをも巻き込み嵐のようにかき乱すのだった。
(続く)
この物語はフィクションです。