ポラリスの贈りもの
東京新橋にある昴然社ビル5階の社長室では、
神道社長と昴然社の伯社長が、
腹のさぐり合いのような商談をしていた。
伯 「何!?半年で同額の報酬でだと!?」
神道「はい。その提案書の通りですよ。
その条件を呑んでいただけないなら、
私どもはこの話受ける気はありません」
伯 「潜りのプロが1年半もかかると言った案件だぞ。
それを半年で仕上げるなんて無理に決まってるだろ」
神道「その無理をうちのスタッフなら半年でできるって言ってるんですよ。
それに、伯さんも今回の件で相当な負債を抱えたのでは?」
伯 「うっ……」
神道「うちの要望を聞いてもらえるなら、
その負債分も全額取り戻すことだって、私どもなら可能です」
伯 「全額だと!
貴様、このわしがそんな簡単な仕事を渡したと思ってるのか」
神道「いえ。一度はプロが不可能だと判断した仕事です。
決して簡単だとは思っていません。
でも、部下が優秀揃いだとそれも可能だ」
伯 「東くんも加わるのか」
神道「もちろん、彼が指揮を執ります。
それに彼が育てた精鋭が今回潜り撮影しますから、
伯さんにも満足して頂ける作品ができると思いますが」
伯 「神道、それは本当だろうな」
神道「はい。本当です」
伯 「これはまさか……
2年前のドイツの件がキッカケか?
わしにその仕返しをするつもりで」
神道「仕返しね(笑)
私がそんなチンケで破廉恥な策略をすると思いますか?
それに、ドイツの仕事では伯さんのお気に入りだった、
うちの金賀屋蒼が良い仕事をして貴方にも多額の報酬が入ったでしょ。
損はさせてないと思うが」
伯 「うーん……わかった。
その条件で呑もう。
その代り、一つだけこちらの絶対条件も加えてもらいたい」
神道「ほう。その絶対条件とは?」
伯 「うちのカメラマン、根岸洋紅を加えて撮影をすること。
うちとの連絡係は彼に一任することが条件だ。
これだけは譲らん!」
神道「なるほど。
(やはりそうきたか。光世の睨んだ通りだな)
解りました。いいでしょう。
しかしそういうことなら、こちらも絶対条件があります。
機材は彼が持ち込むカメラと備品、ダイビング道具以外、
すべてうちが用意した機材を使うこと。
撮影スケジュールはすべてうちの指示に従ってもらう。
そちらからの勝手な変更は認めません。
最後に、貴方に報告する内容は、こちらですべて控えさせてもらう」
伯 「いいだろう。
わしは最高の作品が出来上がればそれでいい」
神道「では、交渉成立ってことで署名捺印を」
伯 「しかし(サインをしながら)
相変わらず、抜け目のない男だな。君は」
神道「私もうちのスタッフも、常に完璧な仕事を目指してますからね。
それなりのことは提示しますよ。
ただ、貴方にも満足いく結果はお約束します」
伯 「その若さで、資本金10億を超える大企業のトップとは。
しかもこの数年で、スターメソッドグループは急成長している。
左団扇でさぞかし気持ちよかろう」
神道「左団扇でトップに立つのが、そんなに気持ちの良いものですか(笑)
それに、トップが自ら動かなければ誰一人ついてこない。
私の財産は金じゃない。
うちに居るスタッフ全員です」
伯 「あくまでも人が財産と言い張るのか」
神道「はい」
伯 「そうか……金は明日全額送金をするから確認してくれ」
神道「分かりました」
伯 「君がそういうなら、敢えて言わせてもらえば、
うちの根岸はわしの片腕で優秀な男だ。
君らに引けを取らない仕事をしてくれるだろう。
(印鑑を押す)くれぐれもよろしく頼むぞ」
神道「はい(書類を手にする)では、早速来週から撮影に取り掛かります。
根岸くんに今日19時からの会議に出席するよう伝えてください」
伯 「ああ。伝えておく」
神道「では。私はこれで失礼します」
二人は立ち上がって、互いの顔色を見ながら握手を交わした。
睨みを聞かせながら相手の弱点を突く神道社長の即効的な攻撃に、
昴然社の伯社長はぐうの音も出ず、神道社長が部屋を出た。
と同時に、ズシンと革張りのソファーに身をゆだねる。
鬼の顔にも重荷を一つ下ろしたような安堵感が窺えた。
そして、圧巻の神道社長は昴然社を出ると、
直様携帯を取り出して、東さんに電話し報告をしたのだ。
神道「もしもし、光世。俺だ。
あの業突く張りの狸じじい、簡単に落ちたぞ」
東さんが事前に動き、
道筋をつけたところに新道がすかさず切り込む。
それはさながらチェスのディスカバーアタックの如く、
鮮やかに相手の駒を取るかのようだった。
(続く)
この物語はフィクションです。