約束のキミを。

2人の話

日を増すごとに、千奈ちゃんはどんどん元気がなくなっていった。

その代わり日を増すごとに、私の服の裾や手をギューと握ってくることが増えた。


どうしてなんだろう…。




そんなことを考えながら、検査を終えた私は、病室に戻った。






「千奈?大丈夫か?」

病室のドアを開けようとして声が聞こえてきた。

少しだけドアを開けて覗くと、いつもと様子が全然違うレンと千奈ちゃんの姿が見えた。

どうしたんだろう…。


私は、なんとなく入りづらくてそっと、見守った。


「ちなヤダよぉ。退院なんてしなたくない!」

すねた顔で、ぬいぐるみをギュと握りしめる千奈ちゃん。

「退院っておめでたいよ!それにさ、千奈通院とかするからこれからも会えるよ?何がそんなに嫌なの?」

諭すように、レンは千奈ちゃんの頭をなでた。

「おめでたくないもん、今までは退院しても、すぐ入院してたけど、もうちなは、この病院来ないんだもん。引っ越すんだもん。ママがね、田舎のほうが空気が良くてちなのためだからって…。イヤだ!みくねぇちゃんとずっと、一緒がいい!」



え!?

驚いてしまった。千奈ちゃん引っ越すんだ…。


「そっか…。でも、きっとみくも退院おめでとうって言うよ!引っ越しても、千奈が元気にしているんなら、みく喜ぶよ!」

レンは、当たり前のように言う。

「だからダメなの!みくねぇちゃんはね、ずーとずーと、ここにいるの。

本当は1番退院したいのはみくねぇちゃんなんだよ。



なのに、退院して行くみんなに、良かったですね!おめでとうって自分じゃないのに自分のことみたいに喜んであげるんだよ!


笑ってあげるんだよ。


みくねぇちゃんがかわいそうだもん!

ちながずーとずーと側にいてみくねぇちゃんが寂しくないようにしてあげなきゃいけないんだもん。
だから退院したくない!!退院できない!

ちなが、いつかみくねぇちゃんにおめでとう言うまで退院できない!」


千奈ちゃんは息が切れそうなくらい一生懸命喋って小さな肩を震わせた。







千奈ちゃん…。

知ってたんだね。私が、すごく退院したかった事。

私が、すごく寂しかったこと。






私は、ずっと一人だと思ってた。










こんなに小さな子に守ってもらってたんだ。





こんなに小さな子が私を思ってくれてたんだ。






私、気づいてないだけで、一人ぼっちなんかじゃなかったんだ!










嬉しくて嬉しくて、健気な千奈ちゃんが愛おしくて、
涙が溢れる。


「千奈。でもみくの事が大好きな千奈は知ってるんじゃない?

みくは自分がどんなに退院したくても、人が退院する時は自分のことみたいに喜んであげられる人だよ。

心から良かったねって思ってくれる人だよ。

きっと千奈の退院も喜んでくれるよ!」

レンがそう言って千奈ちゃんに微笑む。

でも、千奈ちゃんはぬいぐるみをギュと握りしめたまま、うつむいている。

「でも…。でもぉー!みくねぇちゃんが一人ぼっちはいやだよ!!」





千奈ちゃんは、ついに大声で泣きわめきだしてしまった。



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