約束のキミを。
ガラガラ



無意識で扉を勢い良く開けていた。



ギュ

私は千奈ちゃんはの小さな体を抱き締めた。



小さくて、今にも壊れてしまいそうな細い体。


この、小さな体で小さな頭で、この子はどのくらい悩んで私の事を考えてくれたんだろう。どのくらい思ってくれたんだろう…。






「みくねぇちゃん!?」




「ありがとう…。ありがとう…。

でも、千奈ちゃんはいいんだよ。千奈ちゃんはいいんだよ。

千奈ちゃんは退院して外の世界を楽しんで、学校でたくさんのことを学んで、これから少しずつ健康になって、たくさんの友達をつくって、幸せでいて。

私のようには、なって欲しくないから。」

私の涙が、千奈ちゃんの服に滲んだ。

抱きしめた、腕から千奈ちゃんの体温が伝わってくる。

「みくねぇちゃんは寂しくないの?
ちなは、寂しいよ。寂しい…。寂しい…。さみっ…」

千奈ちゃんは、嗚咽交えに泣き出す。


「千奈ちゃんがいなくなったら正直ちょっぴり寂しい。

けど、千奈ちゃんが元気で頑張ってくれてるなら、私も、嬉しいから。私も頑張れるから。

でも、たまにお手紙をくれればそれで安心できるから。

だから、たくさんの字をかけるようになってお手紙ちょうだい!


だから、大丈夫だよ。

私は、ずっとここにいるんだから、もし千奈ちゃんに嫌なことがあったらその時には会いに来てね。

私は、ここにいて待ってるから、だから大丈夫だよ。

大丈夫だから。どこにいても、ちなちゃんが私を思ってくれるなら、私は、独りぼっちじゃないよ!だから…。」

途中で涙が溢れて、私も嗚咽が交えて、苦しくなった。


でも、小さくて優しいこの子にたくさんの思いを伝えたくて…。

私の事を、思ってくれていたこの子に幸せになって欲しくて…。


 ギュ



千奈ちゃんが私を強く抱きしめ返した。

二人で、わんわん泣いた。
本当に、病室に湖ができてしまうくらいに。

ずっと、そばにいた姉妹の別れるのだとしたら、きっとこんな感じだろう。

だって、私にとって千奈ちゃんは、かけがえのない妹同然だ。





「みくねぇちゃん…。ちな友達できるかな?」

千奈ちゃんは、ポツリと呟いた。


「大丈夫だよ。千奈ちゃんだもん。優しくてかわいくて、笑顔が素敵な千奈ちゃんだもん。大丈夫だよ。私が保証するよ。」




そっと、レンのように千奈ちゃんの頭を撫でる。 

レンは、優しい顔で私達を見ていた。


私達は、病室に入ってくる、真っ赤な夕日に照らされながら、ただ、お互いが泣きやむまでしばらくそうしていた。








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