約束のキミを。

お別れ

私は、カーテンを閉め着替える。
お気に入りの白いワンピースを引っ張りだした。最後は、やっぱり1番素敵な自分で別れたかったから。


そして、いつの間にか時間が来る。私と勝くんは、ロビーの外まで着いて行く。

もう、外にはレンが帰るための車も停まっていた。

夏とはいえ、夕方の空気は少し涼しかった。


「勝…。ありがとう。俺、お前と出会えてよかったよ。良い奴だもん!」

レンは、ニッコリと勝くんに笑う。

「みくを頼むよ!勝!俺、お前の事忘れないから、一生忘れない!絶対。絶対!本当に、今までありがとう。」

そう言ってレンは、無理やりレンの手を掴んでギュッと力強く握手した。
勝くんは、照れ臭そうな困ったようななんとも言えない顔で、レンを見つめて

「お前暑苦しいな」

そう言った勝くんに、レンは、ニッコリと笑った。



「レン…。また、会いにきてくれるよね?」

勝くんへの言い方がもう来ないみたいでで不安になった。

「当たり前だろ?だから、待ってて。待っててね」

そう言ってレンは、笑った。

「みく…。」

レンは、左手を私にさし出した。

始めて会った時と同じ…。


なんだか、照れるな…。


私は、そんな事を思いながら手を掴んだ。

やっぱり、レンの手は変わらず温かかった。

「レン…。ありがとう。」

やっぱり、レンに呼ばれる名前はくすぐったくって、レンの名前を呼べることが嬉しくて、心の奥底からたくさんの記憶が蘇る。








初めて会って、握手をした時。




病院探検で目を煌めかせているのを嬉しく感じた時。




肝だめしで、ドキドキしながら笑いあった時。



ヒーロごっこをしてふざけあった時。



喧嘩した時。



二人で、チョコレートを夜中に食べて笑いあった時。




私の家族の話を真剣に聞いてくれたあの時。




お母さん達と和解できた時。



千奈ちゃんの優しさを感じた時。



初めて別れを知った時。



私の事を慰めてくれた時。



屋上でサッカーを教えてくれた時。




私の事を助けてくれた時。



二人で星を眺めた時。




過去の話をした時。





泣いた日。




怒った日。



失う怖さを知った日。



笑いあった日。



嬉しかったこと



寂しかったこと



悲しかったこと





たくさんの気持ちをくれた。


空っぽの私を、たくさんのもので満たしてくれた。



生きてるって感じさせてくれた。





頭の中の思い出たちが爆発しそうで、泣かないって決めたのに、泣きそうになる。




私は、グッと歯を食いしばって、泣かないように踏みとどまろうとする。

繋いだままの手にギュッと力を込めた。

「レン、約束して。また、会えるよね?」

レンは、そっと繫いだ手を解いて

「うん!大丈夫。また会えるよ。」

そう言って、小指を差し出した。
レンはそう言ってニッコリ笑った。

レンの大丈夫は大丈夫な気がするんだ。

レンは、いつも笑っていた。

子犬のようなので人なつこい笑顔で。私は、レンの笑った顔をきっと、忘れない。

私も笑うんだ。レンが、忘れないでいてくれる笑顔で笑おう。

私は、差し出された指に小指を絡めた。

最上級の笑顔で。



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