約束のキミを。
怒りと悲しみ
「舞はここに座って待ってて、飲み物買ってくるから。」
和斗が出て行こうとする。
雪村舞さんは、和斗に「ありがとう」と微笑んで私のベッドの横に座った。
私は、勝くんのベッドの方を見る。カーテンが閉まっていて要るのかいないのかわからなかった。
初対面の人と2人…。気まずい…。
なのに、雪村舞さんはにこにこしながら私を見つめる。
「本当に、かわいいね!でもなんだか、和斗と似てない。美空ちゃんって色白くて砂糖菓子みたい!髪の毛も綺麗だし!」
そう言いながら、フフッとふわっと笑った。
なのに私は、褒められたことへの恥ずかしさとこの女に対する対抗心みたいなものが湧いてきてしまって、頭から布団をかぶり潜り込んでしまう。
最低だな…。わざわざ来てくれた人を前に、無視して布団をかぶるなんて…。
自分で自分が情けなくって、布団の隙間からこっそり覗く。
でも、彼女は、嫌な顔をするでもなく少し困った顔をしてこっちを見ていた。
「やっぱり、美空ちゃんみたいなふわふわした子がいいのかなぁー。
だって、いつも、和斗ってば美空ちゃんの話ばっかりなんだよ?
病弱でかわいくて大人しくてって女の子らしいよね。羨ましいなぁ」
雪村舞さんは、私が無視しているのにもかかわらず一生懸命なにかを話そうとしている感じだった。
でも、それにもムカつく…。何もかもにムカつく…。
私は、ガバッと布団を脱いだ。
「ねぇ?本気で言ってるの?病弱なのが羨ましいの?
私はあなたが羨ましい!
あなた十分かわいいじゃないですか!
そんなに美人なのに嫌味ですか?
それに、学校に行けて勉強できて、スポーツを思いっきりして、私立の名門に通ってるってことは親からも大切にされてるんでしょ?友達だってたくさんいるんでしょ?
もう十分じゃない!幸せでしょ!なんで?
これ以上もういらないじゃない!
さぞかし、いい気分でしょうね!
かわいくて、名門高校に通って、かっこいい彼氏まで手にいれて、わがままを言える家族もいてそれが、当たり前なんでしょう?
私から和斗まで奪わなくていいじゃない!奪わないでよ!私には、ずっと和斗しかいなかったんだから!!」
雪村舞さんは、ハッとした顔になる…。
自分でも驚くほどサラサラ醜いと言葉が出てくる。
「ごめんなさい…。私、そんなつもりじゃ…。」
そんなつもりじゃないのは、なんとなくわかってた軽く行った言葉だってわかってるのに、寂しさを会ったばかりのこの人に全部ぶつけてしまいたくなる。
寂しいんだ私は。寂しいっ…。
「うるさい!!
あなたにはわからない!
私の気持ちなんて!
ずっと入院してるんだよ?
大事な人も来てくれない寂しさがわかる?
あなたみたいな、普通に生活してる人にはきっとわからない!
私の寂しさなんて…。
いい子でいなきゃ好かれない私の気持ちなんて!
ずっと、いい子で生きてきたんだもん!
わがまま言わずに生きてきたの!なのに、なんで、後から現れた幸せそうなあなたに何がわかるの?」
感情のままに、泣き叫ぶように言った。
きっと、この人は和斗のいとこはめんどくさい奴だと思ってるかもしれない。こんなめんどくさいいとこのいる和斗と別れたいとか思ってくるかもしれないな…。
そんな、ことを考えてしまう。
ギュッ
雪村舞さんは、私の両手を両手で包むように握った。
「わかるよ。わかるよ。病気の辛さも怖さも寂しさも。わかるよ。ワガママ言えない苦しさもわかるよ。」
優しい声だった。温かい手だった。
でも…。
「あなたにわかるはずない!」
「わかるよ。私もね、母親が死んだの。病気で…。」
え?
「病弱がいいわけないよね…。
母もねすごくかよわくて病弱だった。
母はお花屋さんだったの大好きなお花を売る姿は魅力的だったし大好きだった。
なのに、死んでしまった。
小学生の時に。
それからは、仕事で忙しい父の、代わりに残された花屋を私が、管理して家の事も全部私。寂しくて悲しくて辛いときの気持ち。私も同じだからわかるよ。ワガママ言えない辛さもわかる。」
長いまつげを伏せながら、どこか悲しそうに微笑んだ。
この人も…。幸せなだけじゃないんだ…。
「雪村さん…。私…。ごめんなさい…。ひどいことを…。」
私は、自分勝手に怒鳴り散らしたことを恥ずかしくなる…。
本当、サイテーだな…。
雪村舞さんは、私の手の握ったままブンブンと首を振った。
「大丈夫だよ。私は、美空ちゃんが怒鳴ってくれて安心した。
美空ちゃんも、人間なんだなって…。
お人形さんみたいな美空ちゃんも、素敵だけど、ストレートに気持ちをぶつける事ってなかなかできない。
だから、私に素直な気持ちをぶつけてくれて、少し嬉しかったというか安心した。
和斗から美空ちゃんの話を聞いた時なんだか心配だった。
いつかその子が壊れちゃうんじゃないかって…。
私は、壊れそうなとき和斗がいてくれたの。だから、ごめんね。私にとっても和斗は大切なんだ。」
そう言ってニッコリと笑う姿はやっぱり綺麗だった。
「そのためにわざわざ?雪村さん…。ありがとうございます」
「うーん。素直に、美空ちゃんに会って見たいって気持ちのほうが大きかったよー!
だって、口を開けば和斗ったら、美空ちゃんのことだもん!
和斗とね、学校ではクールなんだよ!
いつも涼しい顔をしてる感じ?
だから、さっき、美空ちゃんを見る目が優しくってびっくりしちゃった!
あんな顔初めて見たもの!私にもなかなかあんな顔しないのに!羨ましいなー。あと、雪村さんじゃなくって舞って呼んで?」
私は、あの和斗しか知らないからなんだか意外だった。
「じゃあ、舞さんって呼びますね。」
舞さんはくすぐったそうに笑った。
「ねぇ、美空ちゃん!私、美空ちゃんとお友達になりたいんだけどまた来ちゃダメかな?」
「私ももっと、お話してみたいのでぜひ!」
「ほんと?嬉しいなぁー!」
舞さんは、またえくぼを見せて笑う。
なんだか、和斗が舞さんを選んだ理由がわかった気がした。