約束のキミを。
側にいることを
朝起きると、珍しく勝くんの方が先に目が覚めていた。
「おはよう」
「おはよう」
・・・
何を話していいか黙ってしまう。
「俺午前中のうちに退院だから…。」
「そっか…。いい忘れてた!退院おめでとう」
そう言って笑う私に、勝くんは「ありがと」と微笑み返してくれたが、一瞬戸惑った顔をしたように見えた。
「片付け手伝うね!」
そう言って、勝くんの大きなバックのなかにコップやゲームなどを詰める。
しばらくすると、勝くんのお母さんが来て一緒に片付けて、そして私にお花とお菓子をくれた。
「みくちゃん!今までありがとね!勝、お母さん会計とかしてお医者さんたちに挨拶してくるから、準備できたら来なさいね!」
勝くんのお母さんは私に笑いかけたあと、病室を出ていった。
二人残された病室に再び沈黙が走る。
私は、窓の外をボーと見つめた。
何を話せばいいか、もうわからない。
【「あのさ…」「あのね!」】
二人の声が被ってしまう。
二人で苦笑する。
「お前から言って…」
「え?」
若干、勝くんの顔が赤い気がした。
「あのね、今前の通りを歩いていった男の子がちょっとレンに似てたんだ!ほらそこ歩いてるでしょ!」
そう言いながら窓の外を指差す。
「あ、ごめん!くだんない話だよね?」
呆然とした風に立ち尽くす勝くんを見て、慌てて謝る。
「それより、勝くんは何を言いかけたの?」
「ん?なんでもない。その話よりもっとくだんないこと…。」
勝くんは、寂しそうに笑う。
なんとなく、その顔を見ているとそれ以上聞けなくって
「そっか。」
としか、言葉が出てこない。
「じゃあ、もうそろそろ行くから。」
あぁ。ついにこの時が来たんだな…。
私は勝くんに近づいて右手を差し出す。
「今まで本当にありがとう。勝くんと過ごした時間楽しかった。出会えてよかった。」
また会う日までの感謝を伝えるための握手がしたかった。
でも…。
ギュッ
勝くんは、私の差し出した手を無視して、私を抱き締めた。背の高い勝くんにすっぽりと収まってしまう。
今まで、私が泣きついて慰めるようにそっと抱き締めてもらうことはあったけど、勝くんが締め付けるようにギュッとさせるとドキドキしてしまう。
こんなことは初めてだ。
「勝くん?」
勝くんは、、何も答えてくれない。
どのくらいのときがたっただろう。
しばらくして耳元で
「お前のこと死んでも忘れない。絶対に。」
その声は、泣いているみたいでなんだかもう会えないような気がして、
私の瞳が潤んできてしまう。
「私も…。忘れない…。忘れられるわけがない!勝くんっ…。ありがとう。ほんとに、ほんとにありがとっ…」
嗚咽が混じって最後の方はうまく言えなかった。
勝くんは、そんな私をさらに力強く抱き締めてくれた。