約束のキミを。
勝side
勝side
俺は、今日この病院から退院する。
でも、全く気持ちが晴れない。
それは目の前で俺の荷物の整理をいそいそとしている。コイツのことがすごく心残りだからだと思う。
あのとき、レンに
「みくのこと頼むよ!」
と眩しいような笑顔で言われた。でも、瞳は俺の事を全て見透かしているみたいだった。
レンに、言われなくったってずっと控えめでいつも自信無さそうで、たまに見せる表情に陰があるコイツを見ていた。
だから、レンがいなくなってから俺だけがコイツの側に四六時中いてやれて、元気になれるなら、なんでもしてやりたかった。
レンが来る前まで、なにもしてやれなかったぶん力になりたかった。
なのに、なんだかんだいっても元気をもらってたのは俺の方で、
俺の事を不器用なんていうけど、
コイツはもっと不器用で
泣き虫で寂しがり屋で、
でも少しのことで表情がくるくると変わる。
なにもない俺にも、優しい笑顔を向けてくれる。
それがとても愛しかった。
俺に、
「優しくなった。」
なんて言ってたけど、全部お前が俺を変えたから…。
窓の外をぼんやり見る、小さな背中を見つめて
「あのさ…。」
無意識のうちに声に出していた。
伝えたくて
伝えられなくって
叶えたくても叶えられない気持ちを。
でも、
嬉しそうにレンの事を話す明るくて輝いた表情が俺を冷静にさせた。
バカだな俺…。
俺は、やっぱりレンには敵わない…。
俺には踏み出せなかった、
こいつとの心の距離を縮めたレンには敵わないんだ…。
俺は、病室を出ていく。まだ体に残る優しい温もりを抱えて。
きっと、忘れない。
抱き締めたこの体温も。優しい言葉も。笑顔も泣き顔も。
想い出も全部全部…。
『ごめんな…。
サヨナラ…。』