イノセント
俺が不意に放ったその一言を聞くと、女は意を決したように
「…恭也さん!やっぱり大丈夫です、私が我慢すれば「させないよ」

兄はそんな一言を隣の女に向かって優しく言い放つ。

「俺をもう少し頼ってよ。」

…何やってるんだ。

馬鹿馬鹿しい。

よそでやれ。

そんなことを思っていると、兄は少し伏せ目がちにしながら、
「彼女は、家庭内暴力を受けている。」

その言葉に眉をひそめると、女は慌てたように、恭也さん、という。

その女を手で制してから兄は
「彼女の家は母子家庭だ。
彼女の父親は悪く言いたくないけどそう言わざるを得ないような人でね。
彼女のお母さんは彼女を含めてこれから大学に進む三人の子供を抱えてる。」

彼女の腕のところどころに、見えている青アザ。

生々しいそれは俺の血の気をさっと引かせる。

「きっとストレスなんだと思う。
彼女はそれを何も言わずに受け止めてる。
誰にも言わないで1人で抱え込もうとしてる。」

きっと。

今の兄に何をいっても

彼は聞き入れてくれない。

「…助けたいんだ。」

彼は手を強く握りながら。

俺の目をまっすぐに見て言う。

「彼女を助けたい。」
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