イノセント

俺は、ごめん、と言いながらその女の方を見ないようにしながら、ゆっくりとした足取りで二人が座るソファと向かい合うように置いてあるソファに座った。

兄はゆっくりとソファに腰を下ろした俺を見届けると、ゆっくりとした動作で口を開く。

「さっき、花音も自分で言ったけど、こちら谷村花音さん。」

兄の紹介に対し、その女はまた少し照れたような笑みを浮かべながらぺこりと俺に向けて座ったまま頭を下げた。

俺もそれに合わせて苦々しく思いながらも同じように頭をさげる。

「…で、花音、こっちが俺の弟の西野和也。」

その言葉に、
「恭也の弟の西野和也です。」
と自己紹介をしたのはその女に対してどうこう思ったのではなくそれが人としての最低の礼儀だと思ったからだった。

そんな俺達の端から見たらバカみたいに思えるその光景をニコニコと笑いながら見ている兄に向かって、
「…それで。」
というと、兄はそうだったそうだったと言った。

それから花音とやらと一瞬目を合わせたかと思うと、意を決したような面持ちをして俺に対して驚くような言葉を放つ。

「花音をこの家に住まわせてやりたいんだ。」