地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
物足りないキス
家に着いてシャワーを浴びた後、ビールを飲んでいたらスマホの着信が鳴った。
画面を見ると凪からで、私は電話に出た。
「もしもし?」
『玲美?今家に着いたから開けて?』
「えっ?」
『いいから早く!じゃあね』
そう言って凪は電話を切り、私は玄関の扉を開けた。
「どうしたのこんな夜遅くに?」
「どうしたのってあれから心配で、気になって来たのよ。それより上がるね?お邪魔します」
そう言って凪は家の中に入ると、買ってきたのか手に持っていた袋から缶ビールを取り出した。
「一緒に飲もう!私、お風呂にも入ってきたから今日は泊まるならね」
「う、うん」
取り敢えず缶ビールで乾杯した私達。
凪はビールをゴクゴクと飲むと『美味しぃ~』と言った。
「日曜は取り乱して泣いてたけど、今見た感じは普通で安心した。何も連絡なかったから家で毎晩泣いてるんじゃないかって思ったらいてもたってもいられなくて来たけど、その必要はなかったかな?」
確かに月曜日の朝まで辛かった。
だけど笹山くんのせいで、山岡主任の事を考える余裕はなくて、昨夜は早くに寝ちゃったからな……。
「そんな事ないよ、凪がこうして心配してくれて嬉しい」
この気持ちは嘘じゃない。
凪は不倫には反対だし、私に普通の恋をしてほしいと思っているのは凄く伝わる。
私も休みの日に買い物に出掛けて、手を繋いで仲良く歩いているカップルを見ると羨ましくなる。
私は堂々と昼間に山岡主任と手を繋いで歩くことは許されないから。
欲が強くなれば苦しくなるし、それでも好きな私が出来ることは、恋人なら当たり前にしているデートすら諦めるしかないって、自分に言い聞かせる事だった。
じゃあ幸せにならなくて、たた側に居るだけでいいのか?と言われたら私だって女だし、結婚だってしたい。
だけど山岡主任と別れられるのかを考えたら、今の私には無理だ。
同じ会社で働いていて、忘れられるわけがない。