地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜




二人で水族館に着くと、中へ入った。


「夜の水族館もいいもんだね。私は子供の時以来、水族館なんてきてないから久しぶり」


「玲美はさ、損してるよ。あんな奴やめて俺の所に来いよ……」


そう言った笹山くんは私の手をギュッと握った。


山岡主任とこんな風に手を繋いで歩く事はないし、初めての事でドキドキしちゃう。


それに……


"俺の所に来いよ"なんてその顔で言われたら、ドキドキしない人は居ないと思う。


魚よりも、ギュッと握られてる手が気になって、最初は久しぶりでワクワクしていたのが、ドキドキに変わった。


水族館を出た後も手を離すことなく、駐車場まで歩いて行く。


そして車にエンジンを掛けた笹山くんは私に言った。


「残業は暫くはしないけど、来週の土曜日はお互い休みだから朝からデートな?俺が色々と連れて行くから」


「ねぇ……もうこんな事やめない?」


私は彼に言った。


「理由は?」


「理由は……山岡主任が好き、だからだよ」


自分でも知らないキスをされたり、こんな風にデートしたりして、今迄ずっと抑えていた気持ちが、一気に溢れそうになる。


山岡主任は既婚者で、デートだって出来ないし、会えても体を重ねて帰る事が多いかった。


だからこんな風にされたら欲がでてしまうし、自分で決めた事なのに、山岡主任をせめてしまうかもしれない。


「それはさ、俺といて楽しかったからそう思ってるからじゃないの?最初に言ったと思うけどさ、玲美は山岡主任に依存しすぎてんだよ。優しさが離れられなくさせてるかもしれないけどさ、そんなもん求めても幸せにならないだろ?悪いけど来週もデート行くから」


そう言って彼は車を走らせた。


家に着くと車を停めた笹山くんはまだ無言だった。


私はシートベルトを外して笹山くんに言った。


「今日はありがとう……ごちそうにもなって。じゃあおやすみなさい」


そう言って車のドアをあけようとした瞬間、笹山くんに腕を引っ張られたと思ったら、そのまま抱き寄せられてキスをされた。


直ぐには解放してくれないその唇が、私を離れさせられなくする。


「じゃあまた月曜日」


私を翻弄させるだけさせて、彼は唇を離すとそう言って帰っていった。

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