地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
リビングに戻った私は、買ってきてくれたケーキを食べた。
「美味しい」
山岡主任の中で、私の存在は薄くなったのかもしれないってさっきまで思ってた。
出会うのが遅かっただけ……
山岡主任との関係が始まって、どんどん好きになっていく度にそう言い聞かせていた。
彼が結婚した後に出会って恋をしてしまっただけだって。
公に出来ない恋も、デートが出来ない悲しみも、会えない寂しさも、独り占め出来ない苦しさも、乗り越えてきたのは彼の優しさだと思う。
それに不倫を選んだ時点で、何も知らない奥さんと娘さんを傷つけてる事は許されないこと。
デートが出来なくても、会える時間がなくても、それは私が不倫をしている罰だとして受け入れるしかない。
凪が言ったように、山岡主任との関係に終止符をうてたら我慢する恋をしなくても済むし、新しい恋をして、普通にデートして、誰にも隠すことなく堂々と付き合えて、いつかは結婚して、幸せな家庭を作るのは女性なら誰だって思うとおもう。
いつまでもこのままじゃいけないって本当は自分でもわかってる。
だけど好きな気持ちが勝って、山岡主任の優しさを言い訳にして、現実から目をそらしている事も、笹山くんとのデートで思い知らされた。
やっぱり心の何処かで幸せになりたい、どうどうと好きな人と手を繋ぎたいって……。
気がつけば私は涙を流していた。
苦しいのに、別れたら楽になれるのに、それでも山岡主任の事が好きなんだ。