地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
私は笹山くんの弁当をチラリと見ると、何だか美味しそうで、仕方ないから食べる事にした。
彼のペースに流されないように弁当をガツガツ食べて、お茶を一気に飲み干した。
食べ終わってゴミを片付けていると、私に近づいて来た笹山くんが言った。
「玲美……気づいてる?」
「な、何を?」
「俺の弁当食べた時、俺が食べてた割り箸を使ったよな?」
「それが何なのよ……」
「関節キスしてんだぜ俺と」
そう言いながらがまた彼はクスクスと笑う。
言われてみればそうだ……
彼は私の弁当をそのまま取り上げて、箸もそのまま私のを使って食べてたんだ。
「顔真っ赤、中学生かよ」
何て言われてからかわれるし、なんだか悔しくて、商談用のテーブルに二人で座り、メーカーさんが来てノックをした時、『どうぞ』と彼が言った瞬間に思いっきり足を踏んだ。
「痛っ」
彼はそう言ったが、私は澄ました顔でメーカーさんを招き入れた。
「あれ?具合でも悪いんですか?」
顔を歪ませた彼にメーカーさんは言った。
「大丈夫です、飼い猫に少しイタズラされて……」
「飼い猫?」
「こっちの話でもう大丈夫なんで、商品の案内をお願いします」
か、飼い猫!?
私はいつからあんたの飼い猫になったんだ!
そう思いながらも話は進み、私はパソコンに打ち込む作業をしていった。
午後からの商談も、途切れる事なくメーカーさんが来て、十七時にメーカーさんが帰ってからは暫く誰もこなくて、一度コーヒーやお茶を飲んだ紙コップを片付けたりしていた。
片付けが終わり、会議室の扉を開けてもメーカーさんは居なかった。
「もう誰も居ないから今日の商談は終わりでいいかな?」
「だな、だけど遅れてくるかもしれないからデータだけ纏めて、もう少しだけここにいよう」
「わかった」
そう言って私はデータを纏めていると、後ろから笹山くんが私の肩の上に手を置いて、マウスを私の手の上から動かした。