地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
お昼を食べてカフェを二人で出ると、当たり前のように笹山くんは私の手を繋いで歩き出す。
普通に付き合っている人達は、こうして手を繋ぐのが当たり前なんだよね……。
毎日顔を合わせて近くに居たはずなのに、山岡主任は遠い存在だ。
何度体を重ねても、山岡主任には帰る場所がある。
好きな気持が膨らんでいく度に涙を流した。
休みの日には会えない。
それでも好きで色々な事を我慢したけど、やっぱりこうして外に出掛けてデートして、こんな風に手を繋ぐ事をしてしまうと、今の関係に終止符を打つべきなんじゃないかって思う。
だけど山岡主任を目の前にしてしまうと"この関係を終わりにしよう"だなんて言えなくなる。
もっと意思が強ければいいけど、全て山岡主任が初めてだったから、掴んだその手を離すことが出来ないのも事実だ。
デートしてるのに、私の頭の中は山岡主任の事でいっぱいだった。
「またアイツの事を考えてるのかよ……」
「えっ?」
「今は俺とデートしてるんだし、俺以外の奴の事なんて考えるな」
そう言うと私を抱き寄せてキスをした。
ちょ、ちょっと待って!
み、皆が見てるじゃん!
私はキスをされてるけど皆の視線が気になって目をキョロキョロさせた。
「余所見するなよ、俺だけに集中しろ!」
唇を離されたと思ったらそんな事を言われてしまい、その言葉に心臓がドキンと音を立てた。
再び塞がれた唇は、私の口の中までも犯していく。
こんな公共の場でキスをされてしまい、視線が気になって恥ずかしかったのに、彼のキスで周りの目なんか気にならなくなり、気がつけばキスに集中していた。
『うわぁ~彼氏大胆だね』
『ドラマの撮影か何か!?』
『若いって凄いわね~』
そんな声が耳に聞こえたけど、私はキスに集中していた。
やっと唇を離され、笹山くんは私を見て言った。
「やっとアイツが頭の中から消えたな。次もまたアイツの事を考えたらキスするならな」
「……」
私は何も言い返せないまま頷いた。
手を繋いでまた歩き出し、パーキングに戻り車に乗るとまた走りだした。