地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
すると急に体が宙に浮き、見ると笹山くんが私を抱きかかえて、何も言わずに階段を降りて会社の外に出た。
だけど私はあの場から動けなくて、言葉すら出なかった。
駐車場に着いて私を車に乗せると、笹山くんは何も言わずに車を走らせた。
着いたのは私の家だった。
「少し話がしたいから上がらせてもらうから」
「うん」
二人で車を降りて、一緒に私の家の中に入った。
リビングに行きソファーに座ってもらい、私は冷蔵庫から缶ビールを二本取り出して、笹山くんに一本渡した。
無言のまま二人で缶ビールを飲み、途中で笹山くんが口を開いた。
「これでわかっただろ?アイツがどんな男か。外面は良い奴を演じて優しく見えるかもしれないけど、玲美は山岡主任の良い部分しか見てないから騙されてたんだよ。俺が入社したての頃は、得意先の場所を覚える為に各営業と同行してたんだけど、山岡主任は確かに仕事は完璧だしそれは俺も認めていた。だけど得意先の女の人に手をだしてる。一人だけじゃなく複数だ。優しさを利用して気に入った女と遊んでるんだ。アイツから直接は聞いてはないが、得意先の女とそんな会話してるの聞こえたしな。アイツは昔から女遊びをしていて、結婚してもそれが抜けなかったんだろ」
私は言葉にならなかった。
あの優しい山岡主任が女遊びをしていたなんて。
私も山岡主任と不倫関係だけど、私だけだと思っていた……。
「じゃあ何で、私と山岡主任がキスをしていたのを見た日、会議室で言ってくれなかったの?」
「だって玲美はあの時に俺が言ったとしても信じなかっただろ?山梨とアイツも怪しいと思ってたけど、今日の会話を聞いてやっぱりなって思ったし、玲美もアイツの本性わかっただろ?だからもうアイツの事は忘れろ……」
信じられない気持ちで涙が溢れる。
この三年間、デートだって出来なくて、会いたい時に会えないのも我慢していた。
それは山岡主任を愛してるから。
何度もこの関係を終わらせようと考えたけど、結局は私が離れられずに、山岡主任以外の人を考えられなかった。
この三年間、いったい何だったんだろ。