地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
「何だったんだろ……この三年間。例え未来が見えない恋だとしても好きだった。彼の優しさも、笑顔も、名前を呼ぶ声も……私にとって彼が全てで、彼さえ側に居てくれたらそれでよかった。イケナイ事して奥さんや娘さんを傷つけてても、彼を愛してる気持ちが強くて離れられなかった。だけど彼は私だけじゃなくて複数の女性と関係を持ち、更には山梨さんまで……こんな騙されてて気づかない私って馬鹿だよね」
「もうそれ以上言うな……玲美は悪くない、悪いのはアイツだ」
そう言って私を抱きしめた。
もう何もかもがどうでも良くなってしまった。
「ねぇ……抱いてもいいよ」
私がそう言うと、抱きしめていた腕を離して私を冷たい目で笹山くんは見た。
「抱かねぇよ!俺はアイツの代わりじゃないし、今はアイツの本性を知ってどうでもよくなって言ってるだけだろ?そんな女を抱くつもりはないから。玲美が俺を好きになったらイヤってくらい抱いてやる。自分をもっと大事にしろ」
そうやって笹山くんは私の頭を撫でる。
私のが年上なのに、笹山くんの方が年上みたい。
「今日はいっぱい飲んでアイツの事なんか忘れちまえ」
「うん」
「それに玲美はもう十分、苦しんだし悲しんだ。今度は玲美がアイツに言ってやる番だ!」
「何を言うの?出来れば暫くは話したくないんだけど……それに月曜日から彼は出張で会わないじゃない」
会話すらしたくないし、もししてしまったら涙が抑えられないかもしれない。
山梨さんの顔を見るのも嫌だけど、それ以上に山岡主任の顔はもっと見たくない。
「明日、山岡主任と山梨は映画に行くとか言ってただろ?玲美とは何処にも出掛けなかったのに悔しくないのか?山梨とは出掛けるのに」
「それは……」
今まで私はずっと我慢していた。
奥さんが里帰りで居ないにしても、山梨さんとはデートするんだと思うと怒りが込み上げてくる。