地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
『パパ、早く』
『よしよし、そんな慌てるなよ』
そんな会話が聞こえて私はその声に反応して横を向いた。
「……っ」
そこには山岡主任が居て、娘さんに手を引かれていた。
目が合った私達、彼は少し驚いた顔をしていたが、私から目を逸すと娘さんと奥へ歩いて行く。
『ママも早く!』
『居るわよここに』
そう言って後から入ってきたのは綺麗な顔をした女性で、彼の奥さんだとわかった。
奥さんのお腹は大きくて、赤ちゃんがいるみたいだ。
その姿を見た瞬間に胸が苦しくて、痛くて、涙が出そうになる。
会計を払い終ると私は凪の手をは引いてお店を出た。
「どうしたの玲美?そんな急いでって、何で泣いてるの!?」
「……凪っ、苦しいよ」
「兎に角、車に乗ろう」
そう言って私を車に乗せて走りだした。
「彼がさっき居たの、娘さんと奥さんと一緒に。それに奥さん、お腹が大きくて赤ちゃんが生まれるみたい……バカだよね私、凪が言ったように未来のある恋愛をすればいいのに、こんなにも苦しいのに、それでも彼が好きなの」
「玲美……」
凪は何も言わなかった。
言いたい事はある筈なのに、凪の優しさにまた涙が溢れた。
彼から離れられる事が出来たらどんなに楽だろう。
嫌いになれたらいいのに。
ーーー次の日
私は会社の倉庫にコピー用紙を取りに行っていた。
「玲美……」
「山岡主任……」
「昨日はあんな所を見せて悪かった」
「謝らないでっ、お願い、キスして?」
彼は周りに誰か居ないか確認して私にキスをした。
昨夜はいっぱい泣いて、別れまで考えた。
だけど彼の顔を見るとやっぱり好きな気持ちが溢れる。
この恋に未来はなくても、私は彼から離れられない。
そう、この時まで私はそう思っていた。
地味で大人しい後輩の彼に不倫がバレるまではーーー