七夕幻想 《囚われのサンドリヨン後話》
 フラフラと夜空を見上げるうちに、いつの間にか私は、あの懐かしいかつての住みか、思い出のボロ屋の前に立っていた。


「けほっ」

 カギはかかっていなかった。
 人が住まなくなった部屋は、少しホコリっぽい匂いがする。

 かつて過ごした私の部屋は、そのままの姿で残っていた。

 懐かしいシングルのパイプベッドに、私はドサリと仰向けた。

 ホコリが立って、咳き込んだ。
 
 私がここにきた頃は、古城のような広い屋敷に今とは逆で、私と彼の2人だけが暮らしていた。
 トータルで数えれば、彼とは新しい家よりもここで過ごした時の方がずっと長い。
 
 ぎゅっと身を寄せあって縮こまって眠ったベッドは、ま新しい寝室のそれよりずっと彼の薫りを残している気がした。


……ねえ、タカトラさん。

 同じ時を過ごせない、音沙汰のない恋人を、牽牛や織女みたいな神様でもない人間の私達は、一体いつまで待っていられるんでしょうか。


 いいんですか?
 私だってそのうちきっと、何とも思わなくなっちゃいますよ。


 ほんの一瞬、
 夢でもいいから現れて、私を抱き締めてくれたなら。

 もうそれだけで、また想いを続けられるのに……な…

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