七夕幻想 《囚われのサンドリヨン後話》
「夜の会食をキャンセルして、ジェットを飛ばして戻ったよ。天候に恵まれて助かった」

「またそんな無茶をして……」 

 憎まれ口を言いながらも、だんだんと顔が緩んでいくのを隠せない私に、彼は軽く口付けた。

 と思ったら。

「うわっ……」

 今度は痛いくらいに強く私を抱き締めてくる。

「すまない。
 ……寂しくさせたな」

 悔しそうに呟くと、強い力で何度も頭を撫でつける。

「いつもメールをくれて…嬉しく思ってる。お前達が笑顔で過ごしているのを見ると、俺はホッとする。
 ただ返事はな……
 時間が無かったり、何を書いていいものか、いつも悩んでしまうんだ。なんて、言い訳だな、悪い」
 

「そんなの…いいよ……」

 昼間の憂いは一気に忘れた。それより今は貴方の顔が見たい。
 離れようとすると、照れ臭いのだろうか、彼はさらに強く私を抱いた

「……もうすぐだ。8月には目処がつく。
 そうすれば、暫くはこちらに居られるだろう。
 あともう少しだけだから、我慢して待っててくれないか?」

 身動きが取れない腕の中、私はやっと頷いた。

「よし」
 
 やっと身体を離した彼は私を見てフッと微笑む。

「ほかには願い事は?」
 
 しかし私はもう、胸がいっぱいになっていた。危うく泣きそうな震え声で私はやっと彼に告げた。

「ううん、私はもうこれで充分……」
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