満月の夜に優しい甘噛みを
「意識が戻りました。親御さんを・・・」

「・・・親はいません。」

「・・・じゃあ親族の方は?」

「来ないと思います。

俺なんかのことで・・・」

「・・・電話してみますね。」

父親は俺が産まれる前に事故で死んでるし

母親は俺と弟を養えなくなって自殺に走った。

俺をそこから育ててくれた優しくて

たった1人の育て親だった祖母はつい最近息を引き取った。

残っているのは俺のことを毛嫌いしている祖父と叔母くらいだ。

(来るわけない・・・)

自分のことを嫌っているやつらが心配なんてしないし、絶対来ない。

そんな確信は見事に的中した。

電話を終えて帰ってきた先生は言った。

「・・・2人ともあたってみましたが

どちらも来れないそうです。

そっちでなんとかしろと言われまして・・・。」

「・・・そうですか。爽河・・・」

椅子に座っていた爽河に声をかけた。

「・・・お。どした?

なんか欲しいのか?」

「・・・俺についといてくれるか?ずっと」

「あ~・・・

俺も用事あるからずっとは無理だけど

曖來ちゃんと交代で入るから。」

「・・・曖來が?」

「うん。

曖來ちゃんと俺で2時間交代だから。」

「・・・そういうことなんで。大丈夫です」

俺は先生にそっとそう告げた・・・。曖來とふたりきり。

そのことだけが俺の脳裏を埋め尽くした。

話せる。

ちゃんと・・・話さなきゃ。

謝らなきゃ。ちゃんと。

「お。こうたーい。

曖來ちゃんと交代するから。じゃ。」

「・・・爽河!」

俺は病室を出ていこうとする爽河を引き止めた。

「曖來と仲良くしすぎんなよ・・・。」

「なんで?」

意味がわからないという顔をしながら爽河が尋ねてきた。

「・・・なんでも。

お願いだから曖來にあんまくっつきすぎるな・・・」

「・・・わかったよ。ったく。」

「でも、いくらお前が曖來ちゃんのこと好きだからって付き合ってるわけじゃないし・・・。

青空ってやつなんだろ?

曖來ちゃんの彼氏は。」

「・・・俺も惜しいけどさ。

青空くんのものになっちゃったから

人のもんには俺はもう手出さないよ。」

「・・・凛叶も手出さないよな?」

「・・・当然だろ。

もうあいつは・・・だからお前も手出すなよ」

「わかったわかった!!出さないよ。」

わかってる・・・。

曖來がもうあいつのものって事は・・・。

でも・・・

諦めるっていう言葉は俺の頭にはない。

今はその気持ちが顔に出ないように

必死に我慢していた・・・。
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