満月の夜に優しい甘噛みを
「・・・そっか。それは、辛かったな。

・・・ん。」

「・・・え?」

「・・・俺の胸貸してやるから。」

優しい声でそういって私に向かって両手を広げた。

「・・・え?」


「・・・ほらってば。」


「わっ・・・」

私は彼の腕の中に包みこまれた。

(なんだろう・・・ 。

すごい落ち着く気がする。)

居心地の良すぎるに、気づいたら

私は全身の体重を預けていた。


それから、5分・・・

「・・・そろそろ重いんだけど。」

「・・・っご、ごめんなさい!」

慌てて体を起こす。

私は、彼にずっと気になっていた事を聞いた。

「あの・・・」

「・・・なに?」

「お名前なんていうんですか?」

「・・・観音凜叶(かんのん りと)。」

彼は名前を教えてくれた。変わった名前だった。

「あんたの名前は?」

「私の名前は菜原曖來です。

高1です。」

「ふ~ん。

・・・そっか。」

ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴ・・・




「人間か・・・」トン。

「え?」

電車の音で最後の言葉が聞こえなかった。

私は慌てて聞き返す。

「あ。

・・・いいやなんでもないよ。

今日はもう遅いし、

そろそろ家帰ったほうがいいんじゃない?」

「あ・・・」

腕時計に目をやると20時を回っていた。

(やばっ・・・

門限破っちゃう!)

「・・・じゃあ!帰ります!

あ、ありがとうございました!!」

私の顔を見て彼は

「ハハッ」 と笑う。

「・・・私の顔そんなおもしろいですか?」

「うん。すっげーおもしろい。

目腫れててかなりやばい。」

「うそ!」

慌てて自分の目を触る。

その様子を見て、

また彼は笑う。

くしゃっとした笑顔。

くっきりと浮き出るえくぼ。

人を虜にするような、素敵な笑顔で、

淀んだ私の心に一筋の光をくれる彼。

・・・ほんの少しだけ胸の鼓動が早くなった気がした。
< 8 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop