最初で最後の恋。
彼の優しさ
「え、?どうして?」
「だって、お前行くとこ無いんだろ?」
俯く私の髪をくしゃくしゃに撫でてから悟さんはいいですよね?と親戚達に言った。
誰も抗うことなく逆にホッとする素振りを見せた位だった。
どれだけ私は嫌われているのだろう、親戚なのに。
などとくだらないことを考えているうちに流れるが如く御葬式も御通夜も終わり保険金できちんとお墓に皆が眠った。
霊安室で泣いてからずっと枯れていた涙が悟さんの優しい手のせいで零れ出した、悟さんは狡いな。こんな優しくされたら止まらないじゃない、
「俺が今から家族だから、お前を絶対ェ一人にはさせねー。」
笑う悟さんはテレビ画面で見てる神代悟(かみしろさとる)さんではなくて紛れもなくいつも遊んでくれてた優しい悟にいだった、そんなこときっと言っちゃダメなんだろうけど。
悟にい、なんて本当の家族でも無いのに。
手を引かれて悟にいの家に連れて行かれた、住宅街の中に建つ高級マンションの一室だった。
いかにも、芸能人御用達のような。
エレベーターに入れば沢山カメラがあって多分ストーカー対策とか、だと思うけどすごく緊張して、八階に着いたのは良かったけれどすごく大きくて悟にいの部屋を見つけるのはいくら熱烈なファンでと一苦労だろうと考えて歩いているとぎゅと悟にいが私を掴む手に力が入った。
ここ、と云いながら指紋認証の鍵を開けて私を中に入れた。
「悟さん、いいんですか?私なんか、引き取って…」
俯きながら嫌だといわれるのではないのかという恐怖から制服のスカートを握る、その手も微かに震えていた。
「勿論、ていうか逆に嬉しー、かな。ってかさ、」
玄関で靴を脱ぐのを渋っているとくいっと腕を引かれて私の顔と悟にいの顔が目と鼻の先まで近付いた。
「前みてーに悟にいって呼んでくれないのか?俺のこと。」
整った悟にいの顔が近付いていて驚いて戸惑っていると真っ赤な顔した悟にいが悪りィと言って離れて行った、まあ上がれよと言わんばかりにドアのロックが掛かった。
玄関から入ると綺麗に片付いた部屋があった、凄く広くてキッチンも片付けられていた。
おかしいな、悟にいは片付けが凄く苦手だったのに。と首を傾げていると月一で掃除しに来てくれる人が居んだよと私の思考を先読みされた気がしてくすぐったい気持ちになった。
「悟さ、悟にい。私料理出来るよ?」
ぎこちない動きで料理してる悟にいに近付いて言うと良かったと悟にいの表情が糸から解けたように感じた。
「俺全く出来ねーんだよ、さんきゅー。カエデ。」
カエデと言われたその瞬間に懐かしい記憶が鮮明に蘇った、何時もの食卓で皆居てお姉ちゃんが笑って居てお母さんの優しい笑顔があってお父さんが新聞を広げてソファに座って爪を切っている、あの我が家が。
堪らず涙が溢れた、おかえり、カエデ。っていつも笑ってくれたその笑顔はもう無いんだ。
「カエデ?っ!?どうした?!怪我したか?!」
焦る悟にいは私の方に直ぐ掛けてきて心配させちゃダメなのに、涙が止まらなくて、大丈夫と涙声で言うと悟にいは
「大丈夫じゃねーだろ、泣きたいなら泣けよ。我慢すんな。俺が今日から唯一の家族なんだから、な?」
とキッチンで泣き崩れる私を後ろから抱きしめた、回された腕の暖かさに今度は私の緊張の糸が解けた。
「好きだよ、カエデ」