あなたにspark joy
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定時後。

私はそのままK鋼材へと向かった。

ひとこと、石川さんにお礼を言おうと思って。

K鋼材は本社を関西に構えている老舗だけど、都内に営業所が三ヶ所ある。

そのひとつである営業所に石川さんが立ち寄るというので少し時間をつくってもらったのだ。

「石川部長!」

「やあ、園田さん!」

石川さんは若くして営業部長となられた方で、私が入社した時からの付き合いだ。

「石川部長、この度は無理を聞いてくださってありがとうございました」

入り口の前で深々と頭を下げる私に、石川さんが柔らかく笑った。

「園田さん。僕はね、君の頼みなら出来る限りそれに答えるよ。今都内に営業所があるのは、君のお陰だから」

私はもう一度、彼に頭を下げた。

「あの時のことを持ち出すつもりじゃなかったんですけど……結果的にお気を遣わせてしまって、申し訳ございません」

「いやいや、僕はあの日の事を一日も忘れたことはないんだよ。源川コーポレーションとの取り引きを切られそうになったところを助けてもらったんだから。だから、これしきの事やらせてもらわないと、こちらの方こそ恩知らずになってしまうよ」

私はブンブンと頭を振った。

「私、御社の技術の高さや弊社に対する細やかなお気遣いが好きなんです。いくら他の会社が近くても、御社とずっとお取り引きをさせていただきたかっただけです。多分……設計課も保全課も同じ気持ちだと思います」
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