あなたにspark joy
「そんなに見るな」

「だって……」

「ほら、行くぞ、熱燗呑みに!俺、刺身!」

「あはははは!こんな道端で刺身!て叫ばないでよ。まだ店じゃないっつーの!」

「プッ!それもそーだな。ほら、手、かせ」

「えー、手とか繋ぐの!?高広スーツだし、痛い大人っぽくない?」

「うるせー」

ギャーギャーと騒がしい私たち二人は、同じくらいの街の喧騒に溶け込んでいた。

****

「あのさ」

「んー?」

店を出て冷たい風に吹かれると、さっきまでの店内の暖かさが嘘みたいに思えた。

高広といるのに、篠宮さんの顔が心に浮かんだ。

ダメだ、ダメ。

ブンブンと頭を振る私を気に留めるようすもなく、高広が口を開く。

「アロワナ見たいんだけど」

「嘘つくな!アロワナに興味ないだろ!」

私が睨むと高広はテヘッと笑った。

「バレた?まだ生きてんの?」 

「生きてるよ。定期配送されてくる冷凍エビでな!」

「コーヒー淹れてよ」

「ダメ。ここで解散!」

「ちぇ。……じゃあ」

急に高広が私の腕を引き寄せた。

「真優、好きだ」

高広の両手が私の背中に回って、頬がスーツの胸に当たる。
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