あなたにspark joy
***

程なくして事件が起きた。

麻耶の嫌がらせのせいで、園田真優が源川コーポレーションの前田という社員に乱暴をされたのだ。

すぐに助けに行ったけれど、しきりと唇を気にする彼女にどうしてやることも出来なかった。

前田が以前から園田真優を狙っていたのは、何となく分かっていた。

逃げ去る前田を見た時、追いかけて殴り飛ばしてやりたかったが、騒ぎを起こすと彼女が余計辛いと思い、秋彦に報告という形をとることにした。

それから、涙に濡れた彼女を見た時、ひとつの罪悪感が胸に生まれ、俺はハッとした。

もしかして、嫌だったんじゃないだろうか。俺とのキスも。

そう思うと全身が冷たくなっていく中、俺は必死であの時の彼女の顔を思い出そうとした。

ゆっくりと頬を傾けた時、彼女は逃げなかった。

顔を近づけた俺に、彼女は少しだけ瞳を伏せて……。

確かに、バッグで殴られたけど、キスした時は嫌がってなかったと思った。

ダメだ、段々分からなくなってきた。

もしかしてあの日、俺はこんな風に彼女を泣かせていたんじゃないだろうか。

だとしたら、俺だって前田と変わらない。

波のように押し寄せる後悔と、高広の牽制。

真優に興味がないなら近寄るなと、正面切って俺に告げた高広を直視できなかった。

俺は……俺の気持ちは。

高広を見送りショットバーを出た俺は、パーキングの車へと向かわず、タクシーに乗り込んだ。

憂鬱だった。
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