あなたにspark joy
その唇が、私の眼を捉えて離さなくて。

「……っ」

唇に広がる柔らかな感覚に、火花が飛んだ。

端正な篠宮慶太の顔が、ゆっくりと傾いた時から予感していたクセに、動けなかった。

彼が私にしたキスに、動けなくなったのだ。

直後に噴水のライトアップが終わる。

たちまち現実に引き戻された私の脳裏に魔法が解けたシンデレラの話が蘇った。

魔法が……。

解けた……。

「ば、ばかーっ!!!」

「ってぇ!」

持っていたハンドバッグでバコッと篠宮慶太をブッ叩くと、私は噴水から飛び出して公園を走った。

信じられない!

キスしたじゃん!

しかも、大人になってから服のまま水に入るなんて。

公園を抜けたら自宅であるマンションは目の前だ。

私は震える手でバッグから鍵を取り出すと、エントランスへと向かった。

そこでようやく、ハイヒールが無いことに気付く。

片方なら自分をシンデレラと重ね合わせたかも知れない。

けれど。

「両方脱げてるし!!」

自分の汚い足に目眩がした。
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