あなたにspark joy
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翌朝。

「おはようございます」

いつもは一番早く出社している課長がまだみたいだったから、私は誰もいないと思い、小さな声で挨拶しながら肩のバッグを下ろした。

「おはよう。私辞めるけど後はよろしく」

え?

パーテーションから姿を見せた佐伯さんの言葉に驚いて、私は眼を見開いて彼女を見つめた。

そんな私にチラリと視線を送った後、佐伯さんは続けた。

「私を振った男の会社より、兄の会社の力になりたいのよ」

「……」

「あなたのせいじゃないわよ。三ヶ月前から心の中で決めてた事だから」

まだ誰も来ていないオフィスの天井を仰いだ佐伯さんは、何だか少しだけ幼い表情だ。

それが凄く意外で、私は彼女を見つめた。

「私、あなたみたいな人間、大嫌いよ。誰にでもニコニコして媚売ってるみたいで。でもね、上山に言われたわ」

「上山……さんですか」

「あいつ、高校の同級生なの。異性の中で唯一、私が絶対の信頼をおいてる奴」

佐伯さんが小さく笑った。

「アイツだけなのよね。私が佐伯グループの娘って色眼鏡で見ない男は。それから潔くて、最終的にしっかりと見極める『眼』を持ってるのは」

佐伯さんは、何かを思い出しているのか、遠い眼をして続けた。
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