あなたにspark joy
「会社帰りながら聞くわ」

「聞くんかい!」

……確かに高広と別れた時、私はそう落ち込まなかった。

高広はイケメンで明るくて人気者だし、商社勤めでいつも多忙だったから、あまり会えなかった。

……だから結局、ああ私には手の届かない人だったんだなって感じで……自然消滅の事実もすぐ納得出来たというか……。

「なんかね……多分、その当時の私は高広に凄く遠慮してたんだと思うんだ。だから本心も隠してたし、高広の事もよく分かってなかったんだと思うんだ」

南ちゃんがそう言った私に、

「じゃあ、今は?今なら……どう?」

「それがさ」

私は篠宮さんの家での高広を思い返しながら南ちゃんに言った。

「なんか、久々に会ったのに常に会ってる友達並みに普通に会話が出来たの。多分、高広に対する恋愛感情がなくなってるからだと思うけど。しかも、ダッボダボの服にはげ落ちた化粧でしょ?それで完全に開き直ったというか」

南ちゃんは歩きながらウンウンと頷いた。

「そっかー、そーゆーもんかー」

「……うん」

暫く無言で歩いた私達は、開け放たれた会社の門を通過し、総務課の前で足を止めた。

「仕事しますか!」

「ですね!」

「じゃあね」

「うん」

さあ、仕事仕事。

私は深呼吸すると、生産技術課を目指して歩き出した。
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