あなたにspark joy
その時、

「おい、生技( 生産技術課 )の事務員!」

不機嫌な声に呼ばれて、私がハイと返事をして振り返ると、製造部の上山さんがこちらを見下ろしていた。

「なんでしょうか」

「なんでしょーかじゃねーんだよっ!」

バン!と手に持っていた革手を空いていた椅子に打ち付けて、上山さんは私を睨み付けた。

一瞬にして生産技術課のオフィスが静まり返る。

稲田さんが気の毒そうに私を見たけど、助けてくれる様子はなく、机上の書類に視線をおとした。

……製造部はわが社の中で最も気の荒い男性が多い。

つい先日も製造部の安川部長が会議中にパイプ椅子を蹴り飛ばして、乱闘騒ぎを起こしたばかりだ。

私はビクッと肩を震わせたものの上山さんの話を聞かなければと思い、椅子から立ち上がった。

「すみません、何かありましたか?」

「五号機の調子が悪くて昼イチで金型下ろすから見てくれって言ってたよな、俺」

鋳造機の具合が悪くて昼イチで点検する話は確かに昼の休憩前に私が石井くんに伝えた。

「……行ってませんか?」
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