あなたにspark joy
「来てねぇから俺がここにいるんだろーがっ!今日は三時から五号機でトライだぞ?!どーすんだよ!」

トライというのは試作品を作る作業の事だ。

出来た試作品を三次元測定器にかけ、図面にかかれている全ての寸法通りになって初めて、そこからその製品の量産が始まるのだ。

多分上山さんは一直だから、勤務時間の終了する午後七時までに、測定結果が欲しいんだと思う。

「……すみません、すぐ連絡とります」

ホワイトボードには何も書いてなかったから、私は自分のデスクへ戻ると受話器を取り、石井くんの携帯に電話をかけた。

『もしもし』

「石井くん、今どこ?」

『あー、真優ちゃん?今ね、S工場向かってるとこー』

「は?どうして?!」

S工場とはわが社の第二工場で、本社から車で一時間はゆうにかかる。

極力上山さんに聞こえないように圧し殺した声を出す私に、石井くんは訝しげだったが、

『どうしてって、STのラインが調子悪くて今から見に……うわっ!やべぇ!』

上山さんとの約束をやっと思い出したらしい石井くんは、恐る恐る私に尋ねた。

『……上山さん、怒ってる?』

「めちゃくちゃキレてる」

『俺、殺されるかも……どうしよ…けどこっちはマジで急ぎなんだよ!専務直々に電話が、あってさあ』
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