あなたにspark joy
***

泥のように身体が重かった。

藤田さんのお陰で五号機はすっかり元通りになり、無事にトライまではこぎつけた。

「いいんだよ、真優ちゃん。困った時はお互い様だろ?」

製造部の現場から帰ってきた藤田さんは、メットを脱ぐと柔らかく微笑んで私を見つめた。

「本当にすみません。勤務時間を一時間も過ぎてしまって……」

申し訳なくて謝ることしか出来ない私に、藤田さんは白い歯を見せてこう言った。

「覚えてる?もうずっと前だけど、設変(セッペン)入った時にさ、俺が溶接棒の発注頼み忘れてた事」

「あ……」

セッペンとは、設計変更の事だ。

たしか、急ぎの設変が入って、金型の溶接をしなきゃならないのに、溶接棒が未発注だったんだ。

それが運の悪いことに土曜日で、T産業さんが休みだったから急きょ私が、仲の良かった営業さんの携帯にダメ元で電話したら繋がって、営業所にあるから取りにおいでって言ってくださって……。

「平日に頼んでも数時間で届かないのに、真優ちゃん、相手先の会社まで車で走ってくれて、一時間で現場まで持ってきてくれただろ?それで間に合ったじゃん?覚えてる?」
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