あなたにspark joy
背の高い前田さんは手も大きくて、振りほどく事が出来ない。

「……なんかそれって……感じ悪いっていうか……俺と飲めない理由はなんなの」

……怖い。

もう、笑顔をを作る余裕なんてなかった。

恐怖心からか、心臓が痛いほど鳴り響く。

「前田さん……」

その時、

「園田さん」

え。

この声は……なんで……?

いつの間にかオフィスのドアが開いていて、そこに篠宮さんが立っていた。

彼を見た瞬間、驚きと言葉に出来ない感覚……なんというか、全身がビリッとするような妙な感覚が私を包んだ。

決して嫌な感覚じゃなかった。

「篠宮さん……」

驚いたのか、前田さんが私から手を離した。

「帰るよ、早くおいで」

篠宮さんが待ちくたびれたといったように私を見た。

「あ、はい。すみません。前田さん、さようなら」

私は前田さんに頭を下げると、足早に出入り口に向かい、篠宮さんとオフィスを出た。

廊下を歩き、外につながる扉の手前で篠宮さんが私を振り返る。

「大丈夫?」

「……助けてくださったんですか」

篠宮さんが少しだけ笑った。
< 82 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop