先生、あのですね
第1章 わたしの日常
最近、どうしても気になって目で追ってしまう人がいる。
特に何かがあったわけではない。
少女漫画にありがちな、登校中にぶつかったとか、本を取ろうとして手が重なったとか、目が何故か合うとかは一切これっぽっちもなかった。
けれど、何故か気になってしまう。気付けば目で追っている。
「ーー……ぃ……い……おい!」
はっ。
「……なんでしょう?」
「なんでしょうじゃないだろ、何回も呼んでるのに……先生無視されてるのかと思ったぞ」
先生の言葉に周りが笑う。
しまった、ぼんやりしすぎていた。
机の側まで数学の担当教員が来ていたことにすら気付かなかった。
「すみません、少し考え事をしていました」
「なら良いが……いや、良くはないが。問題、解けるか?」
黒板を見れば、問題文だけが書かれてあった。まだノートはまっさらだったけど、解ける問題だ。
私は返事をして黒板へ向かった。
カツカツと黒板をチョークで叩く。その間、教室は静かだった。解き終わり、チョークを置いて席へ戻る。
「よし、合ってるな」
先生がすれ違いざまに回答を確かめる。
「佐々木、体調が悪いとかなら言えよ」
「……はい、大丈夫です」
ついでに心配げに声をかけられた。この人のこういうところが生徒から好かれる要因なんだろうなと思いながら席に着いた。
佐々木 環奈(ささき かんな)。
絶賛、数学担当教師が気になって仕方ありません。
理由は、特になし。