それは嘘から始まる。
友人に声をかけられ、時雨は「千恵《ちえ》ちゃん、おはよう」と返した。そもそも嘘の告白はこの友人の為である。彼女――湯田千恵《ゆだちえ》は、一週間ほど前に優にこっ酷く振られ、それを泣きながら時雨に報告をしてきた。千恵と優はお隣さんの幼なじみ関係であるが、恋愛感情は彼女だけ持っていたということらしい。泣きはらす千恵の姿に、時雨は優に文句を言おうと決めたのだ。「千恵ちゃん、大丈夫! わたしが西名くんに抗議してあげるから」と。しかし千恵は、「ううん。そういうのはいい。あたしはゆうちゃんをぎゃふんと言わせたいの」と言ってきたのだ。それならば、と二人で計画を練り、復讐という名の『好きというのは嘘でした! 作戦』に至ったのだった。
「わたし、昨日、西名くんに告白したんだ」
それは、作戦を実行したということ。千恵は自身の席に座りながら、「そっか」と一言だけ返した。時雨の前の席に座る千恵の背中は、微かに震えている。
「千恵ちゃん、大丈夫?」
「ん? なにが?」
肩越しに振り返る千恵は、どこか楽しそうな雰囲気を纏わせていた。失恋を引き摺って泣いているわけではないと解り、時雨は胸を撫で下ろしながら「なんでもない」と返す。
「で、ゆうちゃんどんな反応だった?」
「どんなって……知らないよ。顔、見れなかったし」
「えぇー、もったいないなぁ」
大きな嘆息を吐き出し、千恵は時雨の鼻先へと人差し指を突きだす。時雨は目を丸めつつ、千恵の動向を窺う。
「あたしが言うのもなんだけど、ゆうちゃんはモテるんだよ!? あたしが告白したのだって、ゆうちゃんが誰かのものになるのが嫌だからだし。でも……、ゆうちゃんには好きな人がいるんだよねー」
誰か解るでしょ? と、千恵は鼻先から人差し指を離し、その手で頬杖をつく。
「時雨」
「天地さん」
千恵の声と、誰かの声が重なる。その誰かとは、謂わずもがな優その人であった。後ろのドアを開けたまま、笑顔で時雨たちの席まで歩み寄る。
「天地さん。昨日は先に帰っちゃってごめんね。ちょっと用事があって……」
「ううん。大丈夫、気にしてないから」
ばつが悪そうに頬を掻く優は、時雨の言葉にすぐさま顔色を変えた。先程とは違う、嬉しげな笑みに。そうして細長い指で、胸ポケットから携帯電話を取り出す。
「わたし、昨日、西名くんに告白したんだ」
それは、作戦を実行したということ。千恵は自身の席に座りながら、「そっか」と一言だけ返した。時雨の前の席に座る千恵の背中は、微かに震えている。
「千恵ちゃん、大丈夫?」
「ん? なにが?」
肩越しに振り返る千恵は、どこか楽しそうな雰囲気を纏わせていた。失恋を引き摺って泣いているわけではないと解り、時雨は胸を撫で下ろしながら「なんでもない」と返す。
「で、ゆうちゃんどんな反応だった?」
「どんなって……知らないよ。顔、見れなかったし」
「えぇー、もったいないなぁ」
大きな嘆息を吐き出し、千恵は時雨の鼻先へと人差し指を突きだす。時雨は目を丸めつつ、千恵の動向を窺う。
「あたしが言うのもなんだけど、ゆうちゃんはモテるんだよ!? あたしが告白したのだって、ゆうちゃんが誰かのものになるのが嫌だからだし。でも……、ゆうちゃんには好きな人がいるんだよねー」
誰か解るでしょ? と、千恵は鼻先から人差し指を離し、その手で頬杖をつく。
「時雨」
「天地さん」
千恵の声と、誰かの声が重なる。その誰かとは、謂わずもがな優その人であった。後ろのドアを開けたまま、笑顔で時雨たちの席まで歩み寄る。
「天地さん。昨日は先に帰っちゃってごめんね。ちょっと用事があって……」
「ううん。大丈夫、気にしてないから」
ばつが悪そうに頬を掻く優は、時雨の言葉にすぐさま顔色を変えた。先程とは違う、嬉しげな笑みに。そうして細長い指で、胸ポケットから携帯電話を取り出す。