この想いを唄にのせて


 いつもの2-Aの教室に向かってみると、スズキくんはやっぱりそこにいた。窓から夕陽が差し込んで、スズキくんの綺麗な茶髪が透けて輝いて見えた。
 声をかけることも忘れて見ているとスズキくんがいつかのように私に気づいてギターを持ったまま歩み寄ってきた。


「部長、こんなところで何してるんです?」
「スズキくんに、会いに来た」


 私がそう言うと、スズキくんの動きが一瞬止まった。


「何か用ですか?」
「うん、あのね。私スズキくんのこと好きになろうと思って」
「え?」


 するとスズキくんの顔が心なしか赤くなったような気がした。夕陽のせいかもしれない。


「歌詞のために、スズキくんを好きな女の子になりきる必要があるって気づいたの」
「え?歌詞?なりきる?」
「そう!実は全然歌詞進んでなくて、スズキくんの顔見ながら書いたらちょっとはイメージできるかなって」
「ああ、なるほど……」
「協力してくれる?」
「いいですけど……部長の言葉は紛らわしいんです……」
「え?」


 何だかよく分からないけれど唇を尖らせていじけるスズキくんは少し可愛かった。


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