この想いを唄にのせて
教室の中に案内され、窓際の一番端っこにスズキくんが座ったので私はその隣に座った。
「あの、俺は何をすれば?」
「別に何もしなくていいよ、普通に作曲してて」
「そうですか……」
スズキくんは私の方から視線を外すとギターを弾き始めた。
こうやって音楽に向き合っているスズキくんは案外嫌いじゃない。いつもより真剣で、いつもよりカッコいいと思う。
たまに楽譜に何かを書き込む仕草や、ギターを弾いてそれからちょっと考え込んだりするところ。見れば見るほど女の子に人気があるのも頷ける。
でもきっと、こうして音楽を前にしたスズキくんを見ることができるのは傍にいる人だけなのかもしれない。
「そっか、こういう感じなのかな……」
誰かを好きになるって、こういう感じなのかも。その人の見たこともない表情や色々を知りたくなるような、けれど何だか怖いような。
スズキくんを好きな子は、傍にいるだけで今の私のように胸が高鳴って仕方がないんだろう。
いや、それだと私もスズキくんのことを好きになってるということになるんじゃ……。
意識した途端、自分の顔に熱が集中してくるのが分かった。
「部長、どうしたんですか?」
「な、何でもない!」
机に顔を突っ伏して表情を隠した。今の顔は見られてはいけない気がする。
だけどそんな私の行動を不審に思ったのか、スズキくんがカタンと、椅子から立ち上がる音が聞こえた。