この想いを唄にのせて
「部長」
正面から声が聞こえた。そっと顔を上げると、そぐ目の前にスズキくんの顔があった。ドキッと、心臓が一瞬にして縮んだ気がする。
「部長、顔赤いですよ」
「うるさい……赤くない」
「嘘です、真っ赤です。部長、本当は俺のこと……」
「違う!そんなんじゃ……!」
「そんなに認めたくありませんか?」
「……」
「……俺のこと、好きになりたくないんですか」
違う、そうじゃない。スズキくんは大事な後輩で、大事な軽音部の仲間で。だから、好きとかそんな感情じゃない。ただ、大事な人。それだけだ。
だって恋愛はいつか終わってしまうものだから。けれど、友情や絆は簡単に無くなったりはしない。私は、臆病者なのだ。
「でも俺は、部長のこと好きです」
スズキくんの、痛いくらい真っ直ぐな気持ちが胸に刺さった。苦しいくらいに心臓を締め付けて離さない。
「ずっとずっと好きでした。中学の頃に初めてこの学園の学園祭にきてから、ずっと忘れられなかったんです」
「……」
「俺の気持ちは、部長にとって迷惑ですか?」
何て答えるのが正解なのか、私には分からなかった。ただ、気が付いたら静かに首を縦に振っていた。
私はスズキくんを最低なやり方で、深く傷つけてしまったのだと、スズキくんが出て行った後の教室で実感した。
翌日からスズキくんはいつもと変わらない笑顔を浮かべていた。
私は、スズキくんの目をもう二度とまともに見ることはできないと思った。