この想いを唄にのせて
「私、スズキくんに迷惑ですかって聞かれて頷いちゃったんだよ?最低すぎて、合わせる顔なんてないよ……」
「え?付き合ってんじゃないの?」
「何で私がスズキくんと……」
「だって俺、ずっと思ってたけど。サクタはスズキのこと好きなんだろうなって」
「な、何でそうなるのよ、意味わかんない……」
スズキくんは大事な後輩で大事な軽音部の仲間。ただそれだけだ。
「なんつーかさ、サクタって真面目で頑固で融通聞かなくて、だけど本当はすごい臆病で弱虫だよな」
「何それ、貶してんの?」
「うん、貶してる。ほんと、人の気持ちに鈍感だし、バカだし機械音痴だし、おまけに色気ねえし」
「色気は関係ないでしょ」
「そのうえ全然素直じゃないし可愛くもない。女のとしてどうなんだってレベル」
「人の話を無視すんな」
タヌキチの頭にチョップをしてやった。けれど思いがけず、タヌキチはその手を掴んで私のことを真っ直ぐに見つめてきた。
なぜだかスズキくんが私に告白してきた時のことを思いだした。タヌキチの瞳はあの日のスズキくんにそっくりだった。
「でも、そんなお前でもいいって思ってくれてる奴が、いるんじゃないの?」
「え……?」
顔に熱が集中してくるのがわかった。タヌキチがあまりにも真剣な顔をするものだから、私も何だか意識してしまう。
「ま、俺はごめんだけどな」
パッと掴んでいた手を離したタヌキチは、チョップのお返しだと言って私の額にデコピンをしてきた。
「な、ななな何なのよ!?」
額を押さえながら真っ赤になった顔を隠しているとタヌキチがくすくすと笑ってきた。なんて悪趣味な奴だろう。
「サクタの両親、離婚しちゃったんだろ?」
「……うん」
高校一年生の時に両親が離婚することになって、それをタヌキチに相談していたことがあった。
当時はどうしてもそれが受け入れられなくて、かなり迷惑をかけてしまった気がする。
「その時のこと、まだトラウマなんじゃない?男女の関係にはいつか終わりがあるって、自分でもほとんど無意識なのかもしれないけど、恋愛に発展しないように自分の心にブレーキかけちゃってんのかも」
「……そうなのかな」
「まあ、俺に全部分かるわけじゃないけど。素直な気持ちで、スズキに向き合ってみたら?」
タヌキチの言葉がいちいち胸に刺さる。
あの日、スズキくんに「好き」だと言われたあの瞬間から、私はまだ一度もスズキくんの目を見て話していないことに気づいた。
ちゃんと向き合わければいけない。私自身の気持ちにも、スズキくんの気持ちにも。でなければ、ずっと避けていても後悔だけが残るだけだ。