この想いを唄にのせて



「スズキ……お前俺に恨みでもあんのか」
「ありますね、色々と」
「何だよ!俺は至って優しい先輩だと思うぞ!」
「優しい先輩は好きだけど優しい男は大嫌いなんで」
「理不尽!」


 タヌキチ先輩がいい奴なのは知っている。部長がいつもタヌキチ先輩のことを良く褒めているから。
 その度に一年の頃はよく相談にのって貰ったとか、タヌキチがいなかったら今頃どうなってるかわからないだとか、控えめに言っても部長はタヌキチ先輩のことを褒めすぎだと思う。
 俺だって部長と同級生だったら、タヌキチ先輩にだって負けない。


「電球入れ替え終わった?」
「あ、はい。できました」


 タヌキチ先輩の上から降りると「お疲れ様」と言って部長が俺に缶ジュースをくれた。


「あ、ありがとう御座います」
「ねえスズキくん、今日一緒に帰らない?」
「えっ」


 部長から誘われるのは初めてのことで、ドキドキしながら「帰ります!」と答えると、部長は少しだけ頬を赤く染めてはにかんだ。
 こういう女の子っぽい時の部長は本当に可愛すぎて罪作りな人だと心底思う。


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