この想いを唄にのせて



「あの、スズキくん……」
「どうしました?」


「えっと実は、一緒に帰ろって誘ったのにはもう一つ理由がありまして……」
「え?」


 もじもじと恥ずかしそうにしながら、部長が俺の方に右手を差し出してきた。


「手、を……繋いで帰りませんか?」
「……っ」


 顔を赤らめて可愛いおねだりをしてくる悪魔級に可愛い俺の彼女にただただ悶絶する。
 差し出された手をゆっくり握りしめると、部長も俺の手を優しく握り返してくれた。胸の奥がきゅうんっと締め付けられる音がした。

 本当はずっと我慢してきた分いろいろとやりたいことはあるけれど、とりあえず今は、この繋がれた手だけで満足するとしよう。


「えへへ、あったかいね」


 そう言って部長は嬉しそうにはにかんだ。


「あの、部長」
「ん?」
「やっぱり今すぐ抱きつきたいです」
「ええ!?」


 前言撤回。これからいろいろ、我慢するのが大変かもしれない。



fin.
2016.06.15
2020.08.04


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