この想いを唄にのせて
「そう言えば、あたしずっと気になってたんですけど~どうしてタヌキチ先輩ってタヌキチって呼ばれてるんです?」
「苗字がワタヌキだからだよ」
「ええ!?ワタヌキって言うんですかタヌキチ先輩!」
「今まで俺の名前が知られていなかったことにびっくりだよ!っていうか前に自己紹介したし!」
「え~全然覚えてませ~ん、やっぱタヌキチ先輩って影薄いんですね~」
「やかましいわ!」
部室がミッチャンとタヌキチの声で騒がしい中、部室のドアがガチャッと開いた。
「あ、どーも」
入ってきたのは今年の唯一の新入部員で一年生のクマタニくん。ポジションはリズムギターとコーラス。部内では皆にパンダと呼ばれている。
因みに名付け親は私だ。苗字がくまで、性格が猫っぽかったので『熊猫』で『パンダ』。なかなか凝っているし、私の中ではとても気に入っている。
パンダも特に嫌とは言っていなかった(良いとも言っていないけど)ので、気づいたらみんなパンダと呼ぶようになっていた。
「パンダ~遅いよ!どこ行ってたの?」
ミッチャンが尋ねるとパンダは部室のパイプ椅子に座りながら「寄り道してた」とだけ答えた。
相変わらずというか、何を考えているのか分からないのがパンダの通常運転なので誰もツッコまない。言わずもがなこの軽音部内の奇人度で言えばパンダがダントツだ。