この想いを唄にのせて
スズキくんは確かに、ギターの技術も歌のうまさも天才的だ。初めて彼が入部してきた時、彼のギターと歌声に私も先輩達もその才能に圧倒された。
けれど、ライブはスズキくん一人のものじゃない。みんなと演奏して、みんなの音が重なり合って初めて一つの曲になる。みんなとの呼吸、タイミング、リズム、全ての五感をフルに活用してやっと成り立つものなのだ。
そしてそれを成立させる難しさは三年間軽音部にいた私自身が身をもって実感している。どんなに技術がすごくても、協調性がなければ全てが台無しだ。
私にとってもタヌキチにとっても学園祭でのステージはこの軽音部の皆と立てる最後の舞台。絶対に失敗したくない。最高の舞台にしたい。そのためにもスズキくんの力が必要だ。
「私ちょっと、行ってくる」
「え、サクタ部長どこ行くんですか~?」
「スズキくん探す。必ず連れてくるから個人練習しといて。あと、パンダが放浪に出ないようにしっかり見張っといてね!」
「了解しました~!頑張ってきて下さいね部長~!」
ミッチャンからの声援を背に、私は部室を飛び出した。