この想いを唄にのせて



「これ、もう少しでできるんです。今度の学園祭で演奏したくて」


 楽譜を私の目の前で掲げてスズキくんは嬉しそうにそう言った。だけど。


「え!?でも新曲はもうミッチャンに曲書いて貰ったし……」
「最後にこれだけどうしても歌いたいんです!お願いします部長!」
「それじゃ、セットリスト組み直して今からその曲の練習もしなきゃいけないし……結構キツイな」
「あの、俺すごい無茶なこと頼んでます……?」
「うん、ものすごーく無茶で面倒なこと頼まれてる」
「ですよね……」


 分かりやすく落ち込んだ表情になるスズキくんを前に、私は一つ息を吐いてから言葉を続けた。


「でも、面白いかも。スズキくんが初めて書いた曲、私も聞いてみたい」


 そう言うとスズキくんの表情がパッと明るくなった。


「じゃ、じゃあいいんですか!俺の曲!」
「その代わり練習には遅刻しないで来ること、いい?」
「はい!絶対遅刻しません!」
「じゃあ帰ったらセットリストの並べ替えしとくから、スズキくんは作曲の続きやって」
「はい!あの……」
「何?まだ何かあるの?」
「あの、もう一つだけわがまま言ってもいいですか?」
「……一応、聞いてあげる」


 正直、これ以上の面倒ごとは抱えきれる自信がないけれど、後輩には何だかんだ甘くなってしまうのが私だったりする。


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